
神道において、「祓(はらえ)」とは穢れや罪を取り除き、心身や場を清らかにするための重要な儀式です。そして、その祓いの神事において呼びかけられる神々が「祓戸大神(はらえどのおおかみ)」です。特に祝詞である「大祓詞(おおはらえのことば)」においては、四柱の神々が「祓戸四神(はらえどししん)」として登場し、人々の罪・穢れを海の彼方へと流してくださる存在として崇められています。
祓戸四神の名前と役割
祓戸四神とは、神道の祓いにおいて中心的な役割を担う四柱の神々であり、「瀬織津比売神(せおりつひめのかみ)」「速開都比売神(はやあきつひめのかみ)」「気吹戸主神(いぶきどぬしのかみ)」「速佐須良比売神(はやさすらひめのかみ)」の四柱を指します。
名前 | 別の表記 | どんな神か(役割・性質) |
---|---|---|
瀬織津比売神(せおりつひめのかみ) | 瀬織津姫命、瀬織津姫神 | 川の流れに乗せて罪や穢れを洗い流す女神。祓いの第一段階を担う神。 |
速開都比売神(はやあきつひめのかみ) | 速開都姫命、速秋津比売神など | 海の女神。瀬織津比売神が流した穢れを海の底へ沈める。祓いの第二段階を担う。 |
気吹戸主神(いぶきどぬしのかみ) | 気吹戸神、気吹主神 | 吹き払う風の神。穢れを吹き飛ばし、完全に清浄にする働きを持つ。祓いの第三段階を担う。 |
速佐須良比売神(はやさすらひめのかみ) | 速佐須良姫命、早狭須良比売神など | 流された穢れを「さすらう」ように遠くへ運び、完全に消し去る神。祓いの終結を司る。 |
これらの神々は、個々に特定の働きを持ちながら、穢れを段階的に処理していくという流れの中で祓いを完結させていきます。まず、瀬織津比売神が人々の罪や穢れを川の流れに乗せて流し、次に速開都比売神がそれを海へと送り出します。その後、気吹戸主神が風を起こして残る穢れを吹き飛ばし、最後に速佐須良比売神が穢れを遠くへ運び去り、完全に消し去るとされています。この流れは、自然界の動きに重ねられ、人の心身や空間の浄化の過程を象徴しています。
祓詞における祓戸大神の登場
「大祓詞(おおはらえのことば)」は、古来より神社での年中行事や個別の祓いの際に唱えられる祝詞です。その中では、人が日常生活で知らず知らずに犯してしまう大小様々な罪や穢れが語られ、それを祓戸大神に委ねることで清められると信じられてきました。
祝詞の中で、祓戸四神の名は明示されませんが、彼らの働きが詠み込まれており、神々の力を借りて「高山の末、低山の末」から「大海原に持ち出して、海底に沈める」という、非常に詩的で象徴的な浄化の流れが描かれます。このことから、祓戸大神とは、名を挙げずともその御力が祝詞の中で具現化されている存在でもあるのです。
祓戸四神が登場する祝詞「大祓詞(おおはらえのことば)」の一節を、実際に神社で唱えられる形式(古語表現)で書き出し、その後に現代語訳(意味)と解説を添えます。
祝詞原文(祓戸四神のくだり)
高山の末(すえ)、低山の末より、
さくなだりに落ち多岐(たき)つ速川(はやかわ)の
瀬に坐(ま)す瀬織津比売といふ神、
大海原に持ち出でなむ。
かく持ち出でいなば、
大海原に坐す速開都比売といふ神、
持ち加加呑(かかの)みてむ。
かく加加呑みてば、
気吹戸(いぶきど)に坐す気吹戸主といふ神、
根国(ねのくに)・底国(そこつくに)に
気吹放ちてむ。
かく気吹放ちてば、
根国・底国に坐す速佐須良比売といふ神、
持ち佐須良比てむ。
現代語訳・意味
高い山の端や低い山の端から、
谷川に流れ落ちる急流の川の瀬におられる瀬織津比売という神が、
人々の罪や穢れを大海原へと運び出してくださいます。
そうして海へ流された穢れは、
大海原におられる速開都比売という神が受け取り、
すべてを飲み込みます。
その後、
気吹戸におられる気吹戸主という神が、
根の国・底の国へとその穢れを吹き放ちます。
最後に、
その根の国・底の国におられる速佐須良比売という神が、
その穢れを完全に持ち去り、跡形もなく清めてくださいます。
大祓詞(おおはらえのことば)に出てくる祓戸大神(祓戸四神)の解説
この祝詞の部分では、人が知らず知らずのうちに抱えてしまった罪や穢れを、四柱の神々が力を合わせて清めてくださる様子が語られています。
最初に登場するのが「瀬織津比売神(せおりつひめのかみ)」です。この神様は、山から流れる谷川の急流のように、人々の穢れを力強く押し流す水の神です。私たちが心の奥に抱えた見えない罪や穢れは、まずこの神の力によって川の流れに乗せられ、遠く海へと運ばれていきます。
次に、「速開都比売神(はやあきつひめのかみ)」がその穢れを受け取ります。広い大海原におられるこの神様は、流れ着いた穢れをすべて飲み込み、深い海の底に沈めてしまいます。穢れが海の底に沈むことで、私たちの心や体からその存在が取り除かれていくことを意味しています。
続いて、「気吹戸主神(いぶきどぬしのかみ)」が登場します。この神様は風の神で、海の底に沈んだ穢れをさらに吹き飛ばし、遠い異界である「根の国」や「底の国」と呼ばれる場所へと送り出します。これは、穢れが現世から完全に切り離されていくことを表しています。
最後に、「速佐須良比売神(はやさすらひめのかみ)」がその穢れを受け取り、さすらわせながら、はるか遠く、私たちの世界とはまったく関係のない場所へと持ち去ってくれます。こうして穢れは跡形もなく消え去り、心身が清らかに整えられるのです。
このように、祓戸四神はそれぞれが段階的に役割を担い、私たちの見えない罪や穢れを、自然の力を通して遠くへと祓い清めてくださいます。この神々の働きを祝詞の中で丁寧に唱えることによって、清めの力が現れ、心身ともに新たな状態へと導かれていくのです。
神社における祓戸社とその信仰
全国の神社では、本殿の横や境内の一角に「祓戸社(はらえどしゃ)」と呼ばれる小さな社が祀られていることがあります。ここでは祓戸四神が祀られ、参拝者はまずこの祓戸社に手を合わせることで、心身を清め、穢れを祓った上で本殿に進むという流れが重視されることもあります。
このように、祓戸四神は単なる神話上の存在ではなく、現代においても日々の信仰の中で、目に見えぬ穢れを祓い、清浄なる状態へと導いてくれる守護神として厚く信仰されているのです。
日常に活かす祓いの心
現代社会においても、私たちは知らず知らずのうちにストレスや不安、他人からの悪意や不運などを受け取ってしまうことがあります。そうした「見えない穢れ」に対して、心をリセットし、清浄な状態に立ち返るための方法として、祓戸四神に祈ることは非常に有意義です。
朝に「祓詞(はらえことば)」を唱えることで一日の始まりを清らかにし、眠る前に心の中で祓戸大神に語りかけることで、心を穏やかに整える。このような小さな祈りの積み重ねが、穏やかで清らかな日常を支える柱となるのです。
祓戸大神の力を日々の中に
祓戸四神――瀬織津比売神、速開都比売神、気吹戸主神、速佐須良比売神は、私たちの目には見えない罪や穢れを取り除き、心の平安と空間の清らかさをもたらしてくれる神々です。古代から現代まで受け継がれてきた祓詞と共に、その力を日常の中に取り入れることで、心身ともに健やかに生きるヒントが見えてくるのではないでしょうか。