日本の旧暦7月「文月」とは何か、由来と意味をていねいに解説

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旧暦の七番目の月「文月(ふみつき)」は、七夕に短冊へ文をしたため、書物を虫干しし、稲が穂を見せ始める頃の季節感を映した月名です。旧暦は月の満ち欠けで月初が決まり、季節合わせに閏月を挟む太陰太陽暦で、文月は現在の暦でおおむね八月上旬から九月上旬に当たります。

この記事では、文月の語源とされる「文披く」「文習う」「穂見月」などの諸説を丁寧に解説し、七夕や盆行事、書物の虫干しといった年中行事との関わりを歴史的背景とともに紹介します。あわせて、手紙の「文月の候」の使い方や、旧暦と新暦を行き来しながら季節の情感を取り入れる実践ヒントもお届けします。

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旧暦とは何か 現在の暦との違い

旧暦は太陽の動きと月の満ち欠けを組み合わせた太陰太陽暦です。月は新月を基準に一か月が始まり、季節とのずれを修正するためにおよそ三年に一度の割合で閏月を入れます。明治六年に日本はグレゴリオ暦へ一本化しましたが、歳時記や年中行事の多くは旧暦の季節感を土台に発達しました。旧暦の七月は現在の暦でおおむね八月上旬から九月上旬に当たり、盛夏の余韻を残しつつも暦の上では秋へ移る境目です。七夕や盆行事を八月に行う地域が多いのは、この旧暦の配当を受け継いでいるからです。

旧暦七月と現在の暦の対応目安

旧暦の月 だいたいの期間 季節の手触り
七月 文月 現在の八月上旬から九月上旬 盛夏から初秋へ移る頃 雨明けと夜風の涼しさ

旧暦の月の呼び方一覧表

現在の月 旧暦の月 読み方 意味・由来
1月 睦月 むつき 「親しい人々が集まり睦み合う月」から。正月の団らんが由来。
2月 如月 きさらぎ 「衣更着(きさらぎ)」が転じたもの。寒さで衣をさらに重ねる季節。
3月 弥生 やよい 「弥(いや)」は「ますます」、「生(おい)」は「生い茂る」の意味。春の芽吹き。
4月 卯月 うづき 卯の花(ウツギ)が咲く季節。卯の花は春の訪れを象徴する白い花。
5月 皐月 さつき 「早苗月(さなえづき)」が略されたもの。田植えの季節。
6月 水無月 みなづき 「水の無い月」と書くが、梅雨明け後で水が涸れる意味とも。実際には田に水を張る月ともされる。
7月 文月 ふみづき 七夕にちなんで「文(ふみ)」をやり取りする月。または「穂含月(ほふみづき)」からとも。
8月 葉月 はづき 木の葉が落ち始める「葉落ち月」が転じたもの。秋の気配が漂う頃。
9月 長月 ながつき 「夜長月(よながづき)」が略されたもの。秋の夜長を感じる季節。
10月 神無月 かんなづき 全国の神々が出雲大社に集まるため「神がいない月」とされる。出雲では「神在月(かみありづき)」と呼ぶ。
11月 霜月 しもつき 霜が降り始める季節であることから。寒さが本格化する頃。
12月 師走 しわす 「師(僧侶)も走るほど忙しい月」という説が有名。年末の慌ただしさを表現。

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文月という名の意味、複数の説を読み解く

文月の語源にはいくつかの有力説があります。もっとも広く知られるのは「文を披く月」という考え方で、梅雨が明けて書物を虫干しし、手紙や詩歌を書き交わす習わしが目立つことから名付けられたという説です。七夕には短冊に和歌や願いをしたため、星に文を届けるという発想が重なります。もう一つは稲の穂が見え始める時期であることから「穂見月」が転じたとする説です。穂を「ほ」と読み、それが音変化して「ふ」に移り、文の字が当てられたと説明されます。さらに書物を風に当てる「文披月」や歌学の稽古が盛んな「文習月」に由来する説も知られ、文字文化と農の季節が交錯する名であることがわかります。

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文月に息づく年中行事、七夕と盆を中心に

旧暦七月七日の七夕は牽牛と織女の星合いを祝う行事で、書や裁縫の上達を願って短冊に文字をしたためます。古くは里の水辺で手や口を清め、機織りや習字に精進する誓いを立てました。七月十五日前後の盆行事は祖霊を迎え送る日本固有の夏の大祭で、地域によっては七月盆、八月盆、九月盆と期日が異なりますが、旧暦七月に営むという本義は共通します。雨が上がり風が通うこの時季は、書物や衣類を乾かす虫干しも盛んになり、文月の名にふさわしい暮らしの知恵が息づいています。

文月に関わる主な行事と意味

行事 時期の目安 趣旨と特色
七夕 旧暦七日 現在は八月開催が多い 短冊に文をしたため技芸上達を祈る 星合いの節供
盆行事 旧暦十五日前後 祖霊を迎え送り供養する 盆踊りや精霊流し
書物の虫干し 雨明けの晴天日 書や衣類を風に当て湿りを抜きカビや虫を防ぐ

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日本神話や和歌とのつながり、文字と星と稲の季節

七夕は中国の牽牛織女伝説を受容しつつ、日本では機織りや書の上達祈願として定着しました。和歌では文月が秋の初めの季語として扱われ、涼しい夜風や虫の音が詠まれます。穂見月の説に立てば、田の稲は出穂期へ入り、初秋の収穫予兆が里を包みます。文字の文化と稲作の循環が同じ月名に映り込み、文月は精神と生業の双方を照らす象徴になりました。

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現在の生活での文月の使い方、旧暦と新暦を行き来する

七夕祭りを八月に行う神社や自治体は少なくありません。これは旧暦七月の季節感を保つための工夫で、夜空の天の川が見えやすい点でも理にかないます。盆行事についても地域の伝統に従うのが最も自然です。歳時記や手帳を旧暦併記にすると、文月のころに虫干しや蔵書整理、暑中から残暑への挨拶文の切り替えなど、暮らしの所作が整います。

手紙では「文月の候」という書き出しがよく用いられ、現在の暦では七月から八月にかけての時候の挨拶として幅広く通用します。旧暦の情感を大切にするなら、八月上中旬に用いるといっそう季節感が合います。

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文月は文字と稲の成熟が響き合う月

文月は単なる七番目の月名ではありません。雨明けの空の下で文をしたため、書をひらき、稲の穂を見守るという二つの世界が重なる時期の呼び名です。七夕の短冊も盆行事の灯も、いずれも先人が旧暦の季節に合わせて編み上げた文化の記憶です。

旧暦の歩みを意識しながら暮らしに取り入れることで、文月は今も私たちの日々を静かに整えてくれます。

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