伊勢神宮(正式には「神宮」)では、約1300年もの長きにわたって20年ごとに「式年遷宮(しきねんせんぐう)」という大規模な儀式が行われています。これは、神様をまったく新しい御殿にお遷しするという、世界的にも類を見ない神事です。
この記事では、式年遷宮とは何か、その意味や背景、実際の内容、そしてなぜ20年という周期なのかという疑問について、日本の歴史・文化・神道の観点から深く掘り下げていきます。
式年遷宮とは?
「式年」とは「定められた年」という意味、「遷宮」とは「神様の御座所(みくら)を移す」ことを指します。つまり式年遷宮とは、定められた年に、神様を新たな神殿に遷す儀式のことです。
伊勢神宮では、内宮の御祭神である天照大御神(あまてらすおおみかみ)と、外宮の御祭神である豊受大御神(とようけのおおみかみ)を、それぞれまったく同じ設計の新しい社殿に20年ごとにお遷しします。
この神事は、衣食住のすべてを刷新する「永遠の今」を保つ仕組みであり、日本の伝統文化における最も重要な継承のひとつとされています。
なぜ20年ごと?――「常若(とこわか)」という思想
式年遷宮が20年ごとに行われる理由には、いくつかの意味と機能がありますが、最も根本にあるのが「常若(とこわか)」の思想です。
常若とは、「常に若く、常に新しい」という神道の根本的な価値観であり、変わらないものを保つために、あえて形を変え続けるという逆説的な理念です。
この発想により、伊勢神宮では神殿や神宝を20年ごとにすべて作り直すことで、永遠の清浄さ・神聖さを保ち続けてきたのです。
また20年という周期は、木造建築の耐久性、技術の継承(職人の世代交代)、そして国家事業としての実行可能性など、現実的な意味でも理にかなっています。
式年遷宮で実際に行われること
式年遷宮は単なる建て替えではありません。およそ8年にわたり、以下のような多岐にわたる神事・儀式が進行します。
2033年(令和15年)に予定されている第63回の式年遷宮を例に紹介します。
時期 | 儀式名 | |
---|---|---|
遷宮の8年前(令和7年) | 山口祭 | やまぐちさい |
遷宮の8年前(令和7年) | 木本祭 | このもとさい |
遷宮の8年前(令和7年) | 御杣始祭 | みそまはじめさい |
遷宮の8年前(令和7年) | 御樋代木奉曳式 | みひしろぎほうえいしき |
遷宮の8年前(令和7年) | 御船代祭 | みふなしろさい |
遷宮の7年前(令和8年) | 御木曳初式 | おきひきぞめしき |
遷宮の7年前(令和8年) | 木造始祭 | こづくりはじめさい |
遷宮の7年前(令和8年) | 御木曳行事(第一次) | おきひきぎょうじ |
遷宮の7年前(令和8年) | 仮御樋代木伐採式 | かりみひしろぎばっさいしき |
遷宮の6年前(令和9年) | 御木曳行事(第二次) | おきひきぎょうじ |
遷宮の5年前(令和10年) | 鎮地祭 | ちんちさい |
遷宮の4年前(令和11年) | 宇治橋渡始式 | うじばしわたりはじめしき |
遷宮の1年前(令和14年) | 立柱祭 | りっちゅうさい |
遷宮の1年前(令和14年) | 御形祭 | ごぎょうさい |
遷宮の1年前(令和14年) | 上棟祭 | じょうとうさい |
遷宮の1年前(令和14年) | 檐付祭 | のきつけさい |
遷宮の1年前(令和14年) | 甍祭 | いらかさい |
遷宮の年(令和15年) | 御白石持行事 | おしらいしもちぎょうじ |
遷宮の年(令和15年) | 御戸祭 | みとさい |
遷宮の年(令和15年) | 御船代奉納式 | みふなしろほうのうしき |
遷宮の年(令和15年) | 洗清 | あらいきよめ |
遷宮の年(令和15年) | 心御柱奉建 | しんのみはしらほうけん |
遷宮の年(令和15年) | 杵築祭 | こつきさい |
遷宮の年(令和15年) | 後鎮祭 | ごちんさい |
遷宮の年(令和15年) | 御装束神宝読合 | おんしょうぞくしんぽうとくごう |
遷宮の年(令和15年) | 川原大祓 | かわらおおはらい |
遷宮の年(令和15年) | 御飾 | おかざり |
遷宮(令和15年) | 遷御 | せんぎょ |
遷宮後(令和15年) | 大御饌 | おおみけ |
遷宮後(令和15年) | 奉幣 | ほうへい |
遷宮後(令和15年) | 古物渡 | こもつわたし |
遷宮後(令和15年) | 御神楽御饌 | みかぐらみけ |
遷宮後(令和15年) | 御神楽 | みかぐら |
これらを通じて、神様のための衣食住のすべてが刷新されるのです。
また、全国から寄進された「お白石(おしらいし)」を敷き詰める「お白石持行事」など、一般の人々が参加できる機会もあり、日本全国の信仰心と文化継承が一体となる巨大な営みです。
前回と次回の式年遷宮
伊勢神宮の式年遷宮は、第1回が持統天皇の時代(690年)に行われて以来、1300年以上にわたって続いています。
- 前回(第62回) 2013年(平成25年)に実施
- 次回(第63回) 2033年(令和15年)に予定
2025年6月現在は次回の遷宮に向け、準備期間「御造営期間」に入っており、神宝や神職の技術継承、地域の支援体制などが進められています。
式年遷宮は何を守ってきたのか?
この一連の仕組みは、単に神事を継続するだけでなく、
- 宮大工や刀匠など日本の伝統技術の継承
- 木材の保護と管理(御杣山制度)
- 神道的な「まつり」の精神の維持
- 国家と国民のつながりの再確認
といった、日本文化の基盤そのものを支える役割を果たしてきました。
伊勢神宮の式年遷宮は、神社の儀式であると同時に、日本という国の「精神の骨格」を支える根幹的な営みなのです。
出雲大社にも式年遷宮はある?
出雲大社(いづもおおやしろ)にも式年遷宮はあります。ただし、伊勢神宮のように「20年ごと」と決まっているわけではなく、約60年ごとという周期で行われるのが特徴です。これは「式年」ではなく「大遷宮(たいせんぐう)」とも呼ばれ、神殿の建て替えや修理、御神体の遷座(お遷し)などを含む重要な神事です。
出雲大社の大遷宮は、本殿の大規模な修復や御装束・神宝の新調などが行われるほか、「本殿遷座祭(ほんでんせんざさい)」という御神体を新たな本殿へ移す儀式が中心となります。前回の大遷宮は平成25年(2013年)に斎行され、多くの参拝者で賑わいました。
このように、伊勢神宮のような定期制ではなく、必要に応じて計画される柔軟な形式である点が、出雲大社の遷宮の特徴です。それでも神殿の清浄と神威の維持を目的とする点は共通しており、古来より続く神道の精神「常若(とこわか)」を体現する大切な神事であることに変わりはありません。
変わらぬ神を守るために、変わり続ける伝統
伊勢神宮の式年遷宮は、単なる建て替えでも観光行事でもありません。そこには、「常若」という日本独自の哲学、神道の精神、文化と技術の継承、そして国民の祈りが込められています。
神が常に清らかで新しい場所に坐すことを大切にする心は、日本人が自然や命と共に生きてきた証でもあります。
次回の式年遷宮(2033年)に向けて、私たち一人ひとりがこの伝統の意味を見つめ直すことは、未来の日本文化を守る第一歩となるでしょう。
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