六月晦日の「夏越の大祓（なごしのおおはらえ）」は、茅の輪くぐりや形代（かたしろ）を通して、半年の罪・穢れ・災厄を祓い清め、後の半年を清新に迎える神事です。本記事では、『延喜式』に遡る歴史と大祓詞の思想、蘇民将来伝承との関係を整理し解説します。
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大祓とは、半年ごとに心身をリセットする祓い
夏越の大祓（なごしのおおはらえ）は、毎年六月三十日を中心に全国の神社で行われる大規模な祓いの神事です。人が知らず知らずのうちに帯びた罪や穢れ、日常の曇りを祓い清め、後の半年を清新な心身で迎えることを目的とします。年末十二月三十一日に斎行される年越の大祓と対をなし、日本の一年を二つの節目で律する古来の時間意識を今に伝えています。多くの神社では神職による大祓詞（おおはらへのことば）奏上と参列者の形代（かたしろ）流し、茅の輪くぐりを組み合わせ、地域の風土に応じた所作が添えられます。
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大祓の由来と歴史、大祓詞と蘇民将来の伝承
大祓の文献上の淵源は『延喜式』に見え、国家的儀礼として六月・十二月の晦日に全土の罪穢を祓う様相が記されています。詞章の中では、祓戸四神の働きにより、もろもろの禍事が川や海へ流れ去るイメージが豊かに描かれます。民間に広く定着したのは中世以降で、疫病除けの物語として知られる蘇民将来伝承が茅の輪の信仰と結び、神社の門前や玄関に護符を掛ける習俗へと展開しました。公的儀礼と民間の祈りが交差しながら、夏越の大祓は「暮らしに根ざす祓い」として磨かれてきたのです。
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いつ・どこで行われるか、日取りと地域差
夏越の大祓の日取りは原則として6月30日ですが、土日や夕刻に合わせて前後数日にわたり斎行する神社もあります。都市部の大規模社では複数回の祭典が組まれ、地方の産土神社では氏子区域の巡行や人形流しを伴う例も見られます。
年末の年越の大祓は12月31日が中心で、二つの大祓の間を茅の輪守や形代がつなぎ、半年ごとのリズムを生活に刻みます。
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大祓の流れと作法、茅の輪、形代、大祓詞
祭典の一般的な流れは、手水で身を清め、参道の茅の輪を八の字に三度くぐり、拝殿前で神職による大祓詞を拝聴し、各自の形代に息を吹きかけて身を撫で、罪穢を移した形代を所定の箱に納める、という順をたどります。茅の輪は生命力を象る青葉で編まれた円環で、輪をくぐる所作が境界を越えて新たに生まれ直す意味をもっています。
形代は人の形に切った紙で、息を三度吹きかけ、身体をなぞることで身代わりとし、のちに川へ流す、またはお焚き上げに付すことが多いです。大祓詞は祓えの根本思想を伝える中心で、詞章に耳を澄ませることで、祓いの観念が心身に行き渡ります。
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夏越の大祓の意味、「半年分の自分」を超える儀礼
夏越の大祓は、災いを遠ざける厄除けの行事であると同時に、半年に一度、自分の言動を見つめ直し、次の半年を清々しい心で始めるための内省の機会でもあります。輪をくぐる一歩、形代に息を吹きかける呼吸、祝詞に耳を澄ます静けさが、心の奥に堆積した塵を浮かび上がらせます。
祓いの後、玄関に茅の輪守を掲げ、通るたびに軽く一礼を添える暮らし方は、祭典の効力を日常へと延長する実践です。
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服装と持ち物、参列のマナー
服装は清楚で動きやすい平服で差し支えありません。境内は神域ですので、露出の多い装いは避け、帽子は拝礼時に外します。写真撮影は導線の妨げにならないよう配慮し、祭典中のシャッター音やフラッシュは控えます。初穂料や形代料は神社の告知に従い、家族分の形代が頒布される場合は氏名を記して納めます。体調に留意し、混雑時には譲り合いの心で臨むことが、祓いの気配を全体に行き渡らせます。
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夏越の大祓と年越の大祓、二つの大祓の違い
夏越は田に水が満ち、暑気が募る折、疫神除けの性格が強く表れます。年越は一年を送り、新年を迎える境に行う大祓で、神棚や古神札の焼納と結びやすい点が特徴です。前者は「水」との結びつきが濃く、後者は「火（焚き上げ）」のイメージが添えられます。いずれも大祓詞を核に据え、罪穢を祓い、心身の再起動を促すという本質は同じです。
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和菓子と食の風習、「水無月」に込める暑気払い
京都を中心に、6月の終わりには三角形に切った外郎生地に小豆を載せた生菓子「水無月」を口にする風習があります。
宮中の氷室に貯えた氷を献じて暑気を払った故事を、庶民は菓子に見立てて受け継ぎました。赤い小豆は邪気を祓う色とされ、夏越の祓の祈りが食文化としても息づいています。祭典の前後にいただくことで、心身の清めと季節の巡りを一層深く感じ取ることができます。
祓いの力を、暮らしのリズムへ
夏越の大祓は、古典の詞章に支えられた国家的儀礼の伝統と、蘇民将来の物語に根ざす民間信仰が溶け合った“生きた祭祀”です。茅の輪をくぐる一歩、形代を納める所作、祝詞に合わせる呼吸が、半年分の自分を超えて次の季節へ踏み出す力になります。年末の大祓と併せて一年を二度整えることで、祓いは特別な日だけのものではなく、日々を端正に生きるためのリズムとして根づいていきます。
輪の前で静かに一礼し、心を軽くして歩み出す――。
そのささやかな身構えに、祓いの本意はもっとも明るく宿ります。
