織物の神「武葉槌命」はどんな神様?(タケハヅチノミコト)

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日本神話には農耕や武勇の神だけでなく、人々の生活を支える衣食住に関わる神々も登場します。

その一柱が、織物の神として知られる武葉槌命(たけはづちのみこと)です。織物の技術を司り、衣服や祭祀の装束を通じて人と神とを結ぶ役割を担ったと伝えられています。また、国譲り神話では強大な星神・甕星香々背男を宿魂石に封じた神としても語られ、織物だけでなく国土平定にも関わる特異な神格を持ちます。

この記事では、武葉槌命の由来や神話での役割、祀られる神社やご利益について詳しく解説します。

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武葉槌命とは

武葉槌命(たけはづちのみこと)は、日本神話において織物の神として知られる神様です。『古事記』や『日本書紀』には直接の記述は見られませんが、各地の伝承や『先代旧事本紀』などに登場し、特に織物の起源や文化と結びつけられてきました。女性の手仕事として重要であった機織りや布作りを司る神格であり、日本の衣生活を支える象徴的存在とされています。

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神話での武葉槌命の登場シーン

武葉槌命は、出雲の国譲りや天津神による葦原中国平定の文脈の中で名前が現れます。

特に有名なのは、鹿島神(武甕槌神)香取神(経津主神)が平定を進めるなか、最後まで抵抗した甕星香々背男を討つ場面です。伝承によれば、この星の神を封じたのが武葉槌命であり、宿魂石にその力を鎮めたと語られています。このことから、武葉槌命は織物の神格であると同時に、国土平定における強力な役割を担った存在ともみなされています。

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武葉槌命と織物との関係

古代日本において織物は単なる生活必需品ではなく、祭祀や贈答、権威の象徴として重要な意味を持ちました。武葉槌命は、機織りの技術を人々に伝えた神とされ、のちに養蚕や染織といった文化とも結びつけられていきます。特に「葉槌」という名には、植物の葉を叩いて繊維を取り出す古代の布作りの工程が反映されているとも解釈されます。

織物を通じて生活を豊かにし、また祭祀の衣装を整えることは、神と人とのつながりを形作る大切な営みでした。

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武葉槌命の信仰と大甕神社

武葉槌命を祀る神社としては、茨城県日立市の大甕神社がよく知られています。ここは甕星香々背男を封じた宿魂石が伝わる社であり、武葉槌命がその神威を発揮した地とされます。また、織物の神としての性格から、各地の機織りに関わる社でも同一視されることがあります。特に、養蚕や絹織物が盛んな地域では、女性たちの守護神として篤い信仰を集めました。

大甕神社の祭祀と宿魂石の伝承、星神封印と織物の信仰とのつながり

大甕神社(茨城県日立市)は、武葉槌命を主祭神とし、またその背後に星神・甕星香々背男(ミカボシカガセオ)の封印伝承を伝える社として知られています。境内には「宿魂石(しゅくこんせき)」と称される岩山があり、この岩層全体が香香背男の荒魂を封じた地として、神体と見なされています。宿魂石は単なる一つの石ではなく、拝殿背後の花崗岩を含む岩山全体を指すとされ、約5億年前のカンブリア紀の地層から成ると伝えられています。

社伝によれば、かつて香香背男は岩の姿に変じて抵抗し、その岩はその後日に日に成長していったとされます。武葉槌命は金の靴(沓)を履いてその岩山を蹴り上げて砕き、封印を果たしたと語られてきました。

その後、社殿や楼門は宿魂石の上に遷座され、武葉槌命(倭文神)は宿魂石と一体化した場に鎮座する神格として強く結び付けられました。元禄期には徳川光圀の命により、社を宿魂石の頂上に移したと伝わっています。

祭祀面では、星神祭(甕星祭)や七夕の星祭が伝統的に行われており、夜の時刻を中心に神楽や灯明をもって星の神を慰め、また織物文化との結びつきが見られます。
加えて、境内には甕星香々背男を祀る社殿が配置され、宿魂石を祀る拝殿と五芒星を彫った神額が見どころの一つとなっています。

近年では、大甕神社で授与される「甕星守(みかぼしまもり)」というお守りが話題です。このお守りには宿魂石に封じられた星神の荒魂が内符されているとされ、悪運を祓い、運気を好転させる御利益があるとされています。頒布は毎月1日のみという形式がとられています。

このように、大甕神社では武葉槌命の織物の神格と、宿魂石に封じられた星神という二重の信仰が複雑に絡み合い、地元では古くから「星を封じ、布を織る神」として崇敬されてきました。祭祀と伝承が神話的世界を現地の風景と結びつけ、今なお訪れる人々に神秘性を感じさせる神社です。

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武葉槌命の神格・ご利益

武葉槌命は織物の神であることから、裁縫や染織、服飾関係の仕事に携わる人々にご利益があるとされます。また、生活を整える神格として、家内安全や商売繁盛、さらには文化芸術の発展にも通じると考えられてきました。甕星香々背男を封じた神話からは、災厄や邪気を鎮める力もあるとされ、平穏な暮らしを守る存在として信仰されています。

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まとめ

武葉槌命(タケハヅチノミコト)は、日本の織物文化を象徴する神であり、生活を支える布作りと密接に関わると同時に、国土平定において強力な役割を果たした特異な存在です。大甕神社をはじめとする社で祀られ、今もなお織物に携わる人々や日々の暮らしを守る神として信仰を集めています。日本神話においては脇役的に見えるかもしれませんが、その存在は古代の人々にとって欠かせない重要な神格であったといえるでしょう。

 

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