布刀玉命とは?ふとだまのみことは岩戸隠れでアメノコヤネと協力した神様

布刀玉命(ふとだまのみこと)は、日本神話において重要な祭祀神として知られる神であり、特に天岩戸神話において天児屋命(あめのこやねのみこと)とともに中心的な役割を果たした神です。神事における祭具・玉飾り・神宝を司る存在として、古代における神道儀礼の象徴的な神格を持っています。後世には忌部氏(いんべし)・斎部氏(いんべし)の祖神として、国家祭祀や神宝の調達を担う家系によって信仰されてきました。

天岩戸神話における布刀玉命の役割

『古事記』および『日本書紀』に記される天岩戸神話において、布刀玉命は祝詞の神である天児屋命(あめのこやねのみこと)とともに、祭儀を取り仕切る重要な役割を果たしました。

天照大御神が天岩戸にお隠れになったことで、世界は暗黒に包まれます。これを憂いた八百万の神々が天安河原(あまのやすかわら)に集まり、神議(かむはかり)を開きます。この神議において、布刀玉命は祭具や神宝を整え、神事を執り行う主導者のひとりとして登場します。

たとえば以下のような行為が布刀玉命によって行われたと伝えられています。

  • 榊(さかき)の枝に玉飾りや鏡を取り付け、神聖な祭具を設える
  • 天児屋命の奏上する祝詞と連動して、儀式の荘厳さを演出
  • 岩戸の前に神宝を掲げ、天照大御神の注意を引く役割

このように、布刀玉命は祭祀に必要な実務・物質的側面を担う神であり、祝詞という言霊の側面を担当する天児屋命とは対を成す存在です。

斎部氏(忌部氏)の祖神としての信仰

布刀玉命は、古代氏族である忌部氏(いんべし)およびその後裔である斎部氏(いんべし)の祖神とされています。忌部氏は、朝廷の祭祀において祭具や神宝の調達・製作を担当する神事の専門家集団でした。

特に伊勢神宮や大嘗祭など、国家的な大祭において重要な役割を果たしていた忌部氏にとって、布刀玉命は職能の根源神であり、単なる信仰対象にとどまらず、家系と神職の正統性を保証する存在として重視されていました。

氏族名 関係する神格 役割と信仰の内容
忌部氏 布刀玉命 神宝・祭具の調達・祭祀の実施を担う
斎部氏 布刀玉命 忌部氏の後裔。伊勢神宮などでの神職を継承
中臣氏 天児屋命 祝詞・言霊・宣命を担当する神事氏族
藤原氏 天児屋命(祖神) 中臣鎌足を祖とし、氏神として信仰された

このように、布刀玉命と天児屋命は、祭祀における「モノ(神宝)」と「コト(言霊)」の両輪を担った神として、対応する氏族とともに古代日本の神事を支えたことがわかります。

神名の意味と性格

「布刀玉命」の「布刀(ふと)」は「太い・尊い」の意があるとされ、「玉(たま)」は神宝としての玉飾りを意味します。すなわち、「布刀玉」は神に捧げる尊い玉=神宝の意であり、神事において用いられる祭具の象徴的存在です。

このことから、布刀玉命は物質的な神宝を司るのみならず、神意の可視化・神聖性の具現化を担う神格といえます。人間の目に見える「かたち」としての神意を、玉や鏡、剣といった形で表す神として、信仰が深められてきました。

現代における信仰と神社

布刀玉命は、現在も各地の神社で祀られており、特に神宝や祭具に関連する神社、また忌部氏に由緒を持つ神社において篤く信仰されています。主な神社には以下のようなものがあります。

神社名 所在地 特徴
忌部神社(いんべじんじゃ) 徳島県徳島市 忌部氏の祖神を祀る古社。布刀玉命を主祭神とする
伊勢神宮 外宮の別宮・多賀宮 三重県伊勢市 豊受大神に奉仕する神職家の祖神としての布刀玉命
石上神宮(いそのかみじんぐう) 奈良県天理市 神宝の信仰と関わりが深く、布刀玉命が関与したと伝わる

布刀玉命の信仰は、物質的なものを通じて神と人をつなぐ霊的な力を表現するものであり、目に見える「祭具」や「宝物」を通じて、神の存在や力を感じるという古代日本人の精神文化が色濃く残っています。

まとめ

布刀玉命は、天岩戸神話において天児屋命とともに祭祀を主導し、神宝や神具を用いて神を招く重要な神として登場します。その役割は、後の忌部氏・斎部氏を通じて国家的な神事へと継承され、神道における祭祀の技術と神意の可視化を象徴する存在となりました。現代においても、神事の本質を体現する神として、多くの神社で静かに、しかし確実に信仰が続いています。