
神社に参拝したり、御朱印をいただいたりするうちに、「神社本庁」という名前を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。鳥居の前の案内板に書かれていたり、神職の方との会話に出てきたりと、神社に少し詳しくなるほど気になる存在です。
「庁」という文字がついているので官公庁の一部のように思えますが、実際は国とは切り離された宗教法人です。なぜ「神社本庁」という組織が生まれたのか、何をしているのか、伊勢神宮や靖国神社との関係は——この記事では、神社本庁の歴史・目的・仕組みを、神社好きな方にも神道に携わる方にもわかりやすくお伝えします。
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神社本庁とは何か
神社本庁(じんじゃほんちょう)は、伊勢神宮(神宮)を本宗と仰ぎ、全国の神社を包括する宗教法人です。昭和21年(1946年)2月3日に設立され、現在では約8万社ある日本の神社のうち7万8千社以上、国内神社の97%が加盟しています。日本最大の神道系宗教団体です。
本部は東京都渋谷区代々木に置かれており、明治神宮の隣に位置しています。各都道府県には地方機関として「神社庁(じんじゃちょう)」が設置されており、全国47庁が地域の神社の実務を担っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立 | 昭和21年(1946年)2月3日 |
| 所在地 | 東京都渋谷区代々木(明治神宮隣) |
| 法人格 | 宗教法人法に基づく包括宗教法人(文部科学大臣所轄) |
| 本宗 | 伊勢神宮(神宮) |
| 加盟神社数 | 約7万8千社以上(国内神社の約97%) |
| 地方機関 | 各都道府県の神社庁(全47庁) |
「庁」という名称から政府機関のように見えますが、神社本庁は官公庁ではありません。宗教法人法に基づく民間の宗教団体であり、国家とは完全に切り離された存在です。この点は、神社本庁を理解するうえで最も重要なポイントです。
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なぜ神社本庁が作られたのか、GHQの神道指令から設立まで
神社本庁が生まれた背景には、第二次世界大戦の終結とGHQ(連合国軍総司令部)による占領政策があります。その歴史を順番に見てみましょう。
戦前の神社——国家神道と神祇院
明治維新以降、日本の神社は国家の管理下に置かれていました。神社を管轄したのは「神祇院(じんぎいん)」という国の機関で、神社は宗教とは別に「国家祭祀(こっかさいし)」を執り行う公的施設として位置づけられていました。いわゆる「国家神道」の体制です。
神社には旧官国幣社(かんこくへいしゃ)をはじめとする「社格制度(しゃかくせいど)」があり、国からの援助や維持費が支給されていました。終戦直前には、神祇院が全国の神職に敵国撃滅の祈願を訓令するほど、神社と国家は深く結びついていました。
昭和20年12月——GHQが「神道指令」を発令
昭和20年(1945年)8月15日、日本が連合国軍に降伏すると、GHQは直ちに日本の改革に着手しました。GHQは国家神道を「軍国主義・過激なナショナリズムの根拠となった思想」とみなし、同年12月15日、日本政府に対して「神道指令(しんとうしれい)」を発令しました。
この指令の内容は次のようなものでした。神社に対する国家による支援・監督・財政援助の禁止、伊勢神宮や官国幣社での宗教的式典への国家関与の撤廃、そして神祇院の廃止——これらにより、神社と国家の分離が強制されました。一方で、国家神道から切り離された「神社神道」は、国民個人の私的な信仰として存続することが認められました。
昭和21年2月——三団体が結集し神社本庁が誕生
神道指令を受けて昭和21年(1946年)2月には神祇院をはじめ、明治維新以来のすべての神社関係法令が廃止されました。翌年には、国有となっていた神社の境内地が無償または低額で神社側に譲渡されることも決まりました。
こうした動きの中で、神社関係の民間三団体——大日本神祇会(だいにほんじんぎかい)・皇典講究所(こうてんこうきゅうしょ)・神宮奉斎会(じんぐうほうさいかい)——が協議して新組織の結成を図りました。そして神祇院廃止の翌日にあたる昭和21年2月3日、この三団体を母胎として、全国の神社を統合包括する宗教法人「神社本庁」が東京渋谷に設立されました。約8万の神社が傘下に入り、神道は他の宗教と同じく民間の宗教として新たな歩みを始めました。
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神社本庁の目的と主な活動
神社本庁は、宗教法人としての規則(庁規)第3条で、その目的を次のように定めています。包括下の神社の管理・指導、神社神道の宣揚、神社祭祀の執行、信者(氏子・崇敬者)の教化育成、本宗である伊勢神宮の奉賛、神職の養成、広報活動などです。
具体的には次のような活動を行っています。
神宮大麻の頒布
神社本庁の活動の中で、全国の家庭に最も身近なのが神宮大麻(じんぐうたいま)の頒布です。神宮大麻とは、伊勢神宮(天照大御神)のお力を宿したお札のことです。神社本庁は伊勢神宮から委託を受けてこの神宮大麻を全国の神社に配布し、各神社を通じて希望する家庭に頒布しています。この神宮大麻の初穂料の一部が神社本庁の主な収入源となっており、全国の神社への支援に充てられています。
神職の養成・資格制度
神社本庁は、神職(宮司・禰宜・権禰宜など)の養成・資格認定も担っています。神職になるためには神社本庁が定めた「階位(かいい)」という資格が必要で、主に國學院大學(東京)と皇學館大学(三重)の神道学科や、神社本庁が実施する検定講習を通じて取得します。
| 階位 | 読み | 主な就任できる役職 |
|---|---|---|
| 浄階 | じょうかい | 神職の最高位。明階を持ち、宮司として長く功績を重ねた者に授与 |
| 明階 | めいかい | 別表神社の宮司・権宮司 |
| 正階 | せいかい | 一般神社の宮司、別表神社の禰宜 |
| 権正階 | ごんせいかい | 一般神社の宮司(小規模)、権禰宜(別表神社) |
| 直階 | ちょっかい | 一般神社の権禰宜 |
なお、巫女(みこ)は神職ではなく、神社本庁が定める資格は必要ありません。各神社が独自の基準で採用・指導を行っています。
過疎地域の神社支援
近年、神社本庁は過疎化・少子高齢化による地方神社の担い手不足という課題に力を入れています。平成28年(2016年)には「過疎地域神社活性化推進委員会」を設置し、氏神様を守り続けるための支援活動を各都道府県の神社庁とともに展開しています。神事や神楽の継承、神社の活性化プログラムなど、地域に根ざした取り組みが各地で行われています。
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神社本庁の「敬神生活の綱領」——信仰の実践規範
神社神道には仏教や一部のキリスト教のような成文化された教義はありません。しかし神社本庁には、信仰の実践規範として昭和31年(1956年)に宣言した「敬神生活の綱領(けいしんせいかつのこうりょう)」があります。
三つの綱領の内容は次のとおりです。
一つ目は「神の恵みと祖先の恩とに感謝し、明き清きまことを以て祭祀にいそしむこと」、
二つ目は「世のため人のために奉仕し、神のみこともちとして世をつくり固め成すこと」、
三つ目は「大御心(おおみごころ)をいだきてむつびやわらぎ、国の隆昌と世界の共存共栄とを祈ること」です。
感謝・奉仕・祈り——この三つが神道の実践の柱とされています。
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神社本庁と神社庁の違い
「神社本庁」と「神社庁」は名前が似ているため混同されがちですが、全くの別組織です。
| 神社本庁 | 神社庁 | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 全国を統括する中央機関(宗教法人) | 神社本庁の地方機関(非宗教法人) |
| 所在地 | 東京都渋谷区代々木 | 各都道府県に1庁ずつ(全47庁) |
| 主な役割 | 全国の神社の管理・指導・神職養成・神宮大麻の頒布など | 地域の神社の事務・連絡調整・神職の指導・祭祀振興 |
| 窓口の対象 | 全国の神社・神社庁 | 地域の神社・氏子・参拝者 |
神社庁は、各都道府県の比較的大きな神社の境内または隣接地に事務所が置かれており、地域の神社に関する相談(氏神神社の問い合わせ、神職の紹介など)に応じています。初詣やお宮参りで「氏神様の神社がどこかわからない」という場合は、お住まいの都道府県の神社庁に問い合わせると案内してもらえます。
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伊勢神宮と神社本庁の関係、「本宗」とはどういう意味か
神社本庁は伊勢神宮(正式名称は「神宮」)を「本宗(ほんそう)」と仰いでいます。「本宗」とは、最も尊い中心的な存在という意味の尊称で、「総本社」とは少し異なります。伊勢神宮は天照大御神(あまてらすおおみかみ)をお祀りする神社として、日本人の総氏神のような特別な存在と位置づけられています。
ただし、伊勢神宮自体は別格の扱いで、神社本庁が定める「別表神社」にも含まれていません。神宮大宮司(神宮の最高神職)の任免も神社本庁の統理(とうり)ではなく、神宮固有の規則に基づき行われています。伊勢神宮は神社本庁の「上」に位置するのではなく、「格別の存在」として尊崇される関係にあります。
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神社本庁に属さない神社「単立神社」とは
全国の神社の97%が神社本庁に加盟している一方、一部の有名神社は神社本庁に属さない「単立神社(たんりつじんじゃ)」として独立した宗教法人の形をとっています。
代表的な単立神社として知られるのが、靖国神社(東京)や伏見稲荷大社(京都)などです。これらは神社本庁に属さないことで、神社本庁の方針や規定とは独立して、独自の運営を行っています。
また、かつて神社本庁に属していたが離脱した神社も存在します。神社の財産管理や宮司人事に関する対立などを理由として、梨木神社・富岡八幡宮・金刀比羅宮・鶴岡八幡宮などが神社本庁を離脱し、単立神社となっています。一方で、一時離脱した明治神宮が平成22年(2010年)に神社本庁へ復帰した例もあります。
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「別表神社」とは、社格制度に代わるもの
戦前の神社には、国家が定めた「社格制度(しゃかくせいど)」がありました。官幣大社・国幣大社・府県社・郷社・村社……といった格付けで神社の格を示す制度です。しかし神道指令により社格制度は昭和21年に廃止され、伊勢神宮を除くすべての神社は制度上は対等な立場となりました。
ただし実際の運営において、大規模な著名神社と小さな無人神社を全く同じ扱いにすると神職の人事などで不都合が生じます。そこで昭和23年(1948年)に神社本庁が設けたのが「別表に掲げる神社」、通称「別表神社(べっぴょうじんじゃ)」です。
別表神社に指定されると、神職の人事に関して次のような特別な扱いが定められています。
宮司・権宮司の就任には明階以上の階位が必要(一般神社は権正階以上)になること、宮司・権宮司の任免は各都道府県の神社庁長の委任ではなく神社本庁統理の直接任免となること、条件を満たせば宮司の下に権宮司を置けることなど、人事上の特別な規程が適用されます。
別表神社は旧官国幣社190社を皮切りに、昭和27年(1952年)以降順次追加され、現在は約300社が指定されています。春日大社・住吉大社・出雲大社・鹿島神宮・熱田神宮など、誰もが知る著名神社の多くが含まれています。
なお、別表神社はあくまでも神職の人事に関する区別であって、社格の復活ではないとされています。しかし実態として、規模・由緒・財政のいずれも充実した大社が指定されており、一般には社格に準じる格付けとして認識されています。
まとめ——神社本庁を一言で言うと
神社本庁は、GHQの神道指令によって国家から切り離された神社を守るために、昭和21年に民間の神社関係者が自ら立ち上げた宗教法人です。官公庁でも国の機関でもなく、伊勢神宮を本宗と仰ぐ全国約8万社の神社の共同体として、祭祀の振興・神職の養成・神宮大麻の頒布・地域神社の支援などを担っています。
全国の神社に参拝するとき、その神社が神社本庁に包括されているということは、何百年もの歴史と信仰を持つ日本の神社神道のつながりの中にあるということを意味します。氏神様へのお参り、七五三や初詣、神事や祭礼——日本人の暮らしの節々に根ざした神道を支える仕組みとして、神社本庁は今日も静かに働き続けています。
よくある質問
神社本庁は国の機関ですか?
いいえ、違います。「庁」という名称から官公庁と混同されがちですが、神社本庁は宗教法人法に基づく民間の宗教法人で、文部科学大臣が所轄する包括宗教法人です。国家とは一切関係を持たない独立した宗教団体です。
すべての神社は神社本庁に属していますか?
国内の神社の約97%が神社本庁に加盟していますが、靖国神社・伏見稲荷大社など一部の神社は「単立神社」として神社本庁に属さず独立した宗教法人として運営しています。
神社庁と神社本庁は同じ組織ですか?
別の組織です。神社本庁が全国を統括する中央の宗教法人であるのに対し、神社庁は各都道府県に置かれた神社本庁の地方機関です。神社庁は宗教法人ではなく、地域の神社と神社本庁の橋渡しをする実務機関です。
神職になるには神社本庁の資格が必要ですか?
神社本庁に属する神社で神職として奉職するためには、神社本庁が定める「階位」という資格が必要です。主に國學院大學・皇學館大学の神道学科、または神社本庁が実施する検定講習を通じて取得できます。なお、巫女は神職ではないため神社本庁の資格は不要で、各神社が独自に対応しています。






