新海誠監督の映画『すずめの戸締まり』は、地震を鎮めるための「戸締まり」の儀式を通じて、人間と自然の関係を描いた作品です。この映画には、日本神話に登場する要石や神々の影響が色濃く反映されています。特に、鹿島神宮と香取神宮に実際に存在する要石の伝説や地震を鎮める神々の信仰が、物語の重要な要素となっています。この記事では、映画『すずめの戸締まり』に描かれたエピソードと日本の神話や文化的背景とのつながりについて考察します。
地震を鎮める要石と神話の役割
映画の中で重要な役割を果たすのが、地震を鎮める「要石」です。この要石は、地震を引き起こす災厄を封じる役割を持ち、日本神話や神社の伝説にも深く根付いています。
要石の伝説
日本では、地震を「ナマズ(鯰)」が引き起こすと考えられてきました。要石は、このナマズを抑えつける役割を担うとされ、特に茨城県の鹿島神宮と千葉県の香取神宮にはその象徴的な要石が祀られています。これらの石は、地震から土地を守るための神聖な存在として信仰されています。すずめの戸締まりの映画の中ではナマズではなく、「ミミズ」と描かれています。
鹿島神宮の要石
鹿島神宮にある要石は、地中深くに埋まっているとされ、その上に立つと不思議な力を感じると言われています。これは、日本の大地を安定させるために設置されたもので、神話上の地震を鎮める力を象徴しています。
香取神宮の要石
香取神宮にも同様の要石があり、鹿島神宮の要石と対になる形で祀られています。これらの要石は、古代から人々が地震に対して持つ畏敬の念と、それを鎮めるための信仰を反映しています。
映画に登場する要石の役割と日本神話との関連
映画『すずめの戸締まり』では、主人公の少女すずめが「戸締まり」を行うことで、災害から人々を守ります。この戸締まりの行為は、要石が地震を鎮めるという神話的な役割と重なります。
戸締まりの儀式
映画では、古い扉を通じて災厄の元を封じる「戸締まり」という儀式が描かれます。この儀式は、要石が地震の元を封じる役割と共鳴し、災害を鎮めるための神聖な行為として位置づけられています。
すずめの使命
すずめの戸締まりの使命は、災厄を封じ込めるために各地を巡ることで、要石が大地のバランスを保つ役割を担うことに通じています。この物語を通じて、自然災害に対する人々の恐れとそれに立ち向かう勇気が描かれています。
ダイジンの隠された役割、災厄と守護の狭間に立つ存在
新海誠監督の映画『すずめの戸締まり』に登場するキャラクター「ダイジン」は、物語の中心で重要な役割を果たす謎めいた存在です。一見すると、ダイジンは主人公すずめに混乱をもたらすような行動を取りますが、その隠された役割には日本神話や信仰における深い意味が込められています。
ダイジンの表面的な役割
映画の中でダイジンは、神社の扉を解き放ち、地震を引き起こす元凶として描かれています。その行動は、すずめの戸締まりの使命を妨害するように見え、物語の一部で彼は「災厄を招く存在」として認識されます。ダイジンは、神社の扉を解き放ち、災厄を呼び込む行為を繰り返します。この行動は、一見すると災害を招く悪役のように見えますが、実際には物語全体にわたる更なる意味を持つ行動の一部です。
ダイジンの隠された役割
ダイジンの行動には、表面的な役割とは別に、深い神話的な意義と守護の役割が隠されています。ダイジンの行動は、ただの災厄の引き金ではなく、自然界のバランスや人間との関係に重要な意味を持つものです。
ダイジンは、地震を引き起こす扉を開け放ちますが、これは災厄の元を顕在化させるための行動とも解釈できます。日本神話においても、災厄や混沌が現れることで、それを鎮めるための行動が導かれるというテーマがあります。ダイジンの行動は、災厄を表面化させることで、それに対処する機会を提供し、人間の対応を促すものと考えられます。
守護神としての試練を課す
ダイジンは、直接的に災厄をもたらす存在でありながら、最終的には守護神としての役割を持っています。ダイジンの行動は、すずめに対して試練を課し、彼女の使命感や責任感を試すものです。この試練を通じて、すずめは成長し、災厄に対する理解と対応の力を養います。
自然の力と人間の関係の象徴
ダイジンは、自然の力の象徴としても解釈できます。彼の行動は、自然界が持つ予測不可能な力や、地震などの災害を表現しており、それに対する人間の対応や信仰の姿勢を問うものです。自然界の力を単なる災厄として捉えるのではなく、それを理解し、共存しようとする姿勢を求めるメッセージが込められています。
ダイジンの神話的背景
ダイジンの存在は、日本神話における守護神や自然の力を象徴する神々の概念と深く結びついています。特に、地震を鎮める役割を持つ神々や、自然の力を象徴する存在との類似点が見られます。
地震を鎮める神々、神話と信仰の背景
地震を鎮める役割を持つ神々や霊的な存在は、日本神話や伝統的な信仰の中で重要な位置を占めています。
鹿島神宮の武甕槌命(タケミカヅチ)
鹿島神宮の主祭神である武甕槌命は、戦いの神であり、地震を鎮める力を持つとされています。彼の剣(フツノミタマノツルギ)は、地を鎮める力を象徴し、要石とともに地震を防ぐ力を持つと信じられています。
香取神宮の経津主命(フツヌシ)
香取神宮に祀られる経津主命もまた、武甕槌命と共に地震を鎮める力を持つ神です。彼の神剣は、地震を抑え、人々を守るための力を象徴しています。
地震神(ナマズ)
日本の民間伝承では、地震を引き起こすナマズという存在が知られています。ナマズが暴れると地震が起こるとされ、これを抑えるために要石や神々が登場するのです。
自然災害と人間の関係、映画に込められたメッセージ
『すずめの戸締まり』は、自然災害と人間の関係、そしてそれに対処するための儀式や信仰をテーマにしています。新海誠監督の作品は自然現象や災害をテーマにし、それと人間がどのように向き合っていくのか、日本の文化的な背景をベースに構成されているものが多いです。
自然への畏敬
映画は、自然災害に対する畏敬の念を通じて、人間と自然の関係を描いています。地震を鎮めるための儀式や要石の存在は、自然の力を敬い、調和を求める日本の文化的背景を反映しています。
災害に立ち向かう勇気
すずめの旅と戸締まりの行為は、自然災害に対する恐怖に立ち向かう勇気を象徴しています。災害を防ぐための努力やコミュニティの絆が、困難に直面する人々にとって重要であることを伝えています。
文化と伝統の継承
映画は、古代から続く伝統や儀式が現代でも重要な意味を持つことを示しています。伝統的な信仰や文化的な要素を通じて、人々が自然災害にどう対処してきたかを学ぶことができるのです。そして、すずめの戸締まりでは、実際に日本の鹿島神宮と香取神宮に存在している要石というものを取り上げ、日本人が伝統的に祈ることの大切さ、自然と共存し災害から守られて生きていけるのはこれも自然を司り調和する神様やおかげさまの心が根底になることを示しています。また、地震というテーマをこの作品に取り入れたのも東日本大震災や阪神淡路大震災などいろいろな地震が日本に襲い掛かった中でリアリティを持ってその人が考えるきっかけになるためだと考えられます。科学が発展した現代ですが、昔の人は大切にしてきた考え方や価値観も改めて見直してみようというメッセージが込められているように感じます。
まとめ
新海誠監督の『すずめの戸締まり』は、地震を鎮める要石や日本神話に登場する神々の影響を受けた作品であり、自然災害に対する人々の信仰と畏敬の念を描いています。映画に登場する戸締まりの儀式や要石の存在は、日本の文化的背景と深く結びついており、自然との調和を求める姿勢や、災害に対する勇気を強調しています。この作品を通じて、視聴者は古代の知恵と現代の課題を結びつけながら、自然に対する畏敬の心と共存の大切さを感じ取ることができるでしょう。