延喜式とは?奈良・平安時代の国家制度をまとめた法典(えんぎしき)

「延喜式(えんぎしき)」とは、奈良・平安時代の律令国家において定められた法令・制度をまとめた法典です。平安時代の延喜5年(905年)に編纂が開始され、延長5年(927年)に完成しました。全50巻・約3300条にもおよぶ膨大な内容を収録しており、律令制下における政治・行政・祭祀など、国家運営の細部を知るうえで貴重な資料となっています。

特に、神社の祭祀や運営を定めた「神名帳(じんみょうちょう)」が有名であり、今日でも各地の神社でその名を耳にする「延喜式内社」と深い関わりを持っています。この記事では、延喜式の内容を具体的に紹介し、特に「延喜式神社(式内社)」について詳しく解説していきます。

延喜式とは何か?

延喜式は、平安時代の天皇(醍醐天皇)の命によって編纂された、日本古代国家の実務マニュアルです。

律令制の時代には、律(刑法)と令(行政法)を基本としながら、実際にそれらを運用するために細かい規則や手続きを定めた「式」が制定されました。延喜式はその集大成であり、国家の政治・行政・経済・祭祀を具体的かつ詳細に規定しています。

全50巻、約3300条から構成されており、その内容は多岐にわたります。たとえば、官僚の職務、儀式の進め方、租税の徴収方法、軍事の規則、祭祀の方法など、国家運営に必要なあらゆる事項が記されています。

延喜式の主な構成と具体的内容の例

延喜式は大きく次のような項目で構成されています。

  • 巻1~巻10 神祇官に関する規定(祭祀や神社管理の方法)
  • 巻11~巻40 太政官八省(行政機関)の運営方法
  • 巻41~巻49 その他の雑多な規定(儀式の進め方、冠婚葬祭など)
  • 巻50 「延喜式神名帳」神社一覧(全国の神社名を記載)

具体例として、以下のような規定があります。

  • 宮中の正月儀式の進め方
  • 諸国からの貢物の種類と量(各地の特産品の納入ルール)
  • 役人の服装・勤務規則(官位による服装・装飾品の規定)
  • 戸籍や租税帳簿の作成方法
  • 医薬品の調達と管理方法(宮中で使われる薬の一覧や調合方法など)

これらを見ても、国家運営の実務マニュアルとしてきわめて詳細であることが分かります。

延喜式神社(式内社)とは?

延喜式の中でも特に重要で、現代にも影響を与えているのが「延喜式神名帳」です。これは第9・10巻および最終巻(第50巻)に収録されており、当時の日本全国(68カ国)にあった2861社(3132座)の神社が、詳細に記されています。

「式内社(しきないしゃ)」とは、この延喜式神名帳に記載された神社のことであり、当時の国家が公式に認定し、祭祀の対象としていた神社を意味します。

延喜式神名帳に記載されている内容

延喜式神名帳には、各地の神社が以下のように具体的に記載されています。

  • 神社の正式な社名
  • 神社が所在する国・郡名
  • 神社の祭祀の規模(大社・小社の区別)
  • 神社に捧げるべき供物の種類と量
  • 神社で行うべき祭祀の内容と時期

具体例としては、伊勢の「大神宮」(現在の伊勢神宮)をはじめ、出雲の「杵築大社」(現在の出雲大社)など、現代でも名高い著名な神社が明記されています。

式内社は、全国68国(現在の都道府県に相当)にわたって存在し、各国ごとに大社・小社の区別や、官幣社・国幣社の別が定められています。具体的な神社名や所在地、社格などの詳細は、『延喜式』神名帳に記載されています。全ての神社名を列挙すると膨大な量になるため、当時の国にいくつの式内社があったかを記載します。

国名 式内社数
大和国 81社
山城国 49社
河内国 45社
和泉国 17社
摂津国 75社
伊勢国 63社
志摩国 4社
尾張国 76社
美濃国 47社
飛騨国 12社
信濃国 34社
近江国 66社
丹波国 45社
丹後国 17社
若狭国 3社
越前国 12社
加賀国 12社
能登国 9社
越中国 19社
越後国 19社
佐渡国 2社
常陸国 29社
下野国 13社
上野国 19社
武蔵国 51社
安房国 6社
上総国 6社
下総国 14社
甲斐国 13社
相模国 15社
伊豆国 99社
駿河国 18社
遠江国 20社
三河国 13社
尾張国 76社
美濃国 47社
飛騨国 12社
信濃国 34社
近江国 66社
丹波国 45社
丹後国 17社
若狭国 3社
越前国 12社
加賀国 12社
能登国 9社
越中国 19社
越後国 19社
佐渡国 2社
常陸国 29社
下野国 13社
上野国 19社
武蔵国 51社
安房国 6社
上総国 6社
下総国 14社
甲斐国 13社
相模国 15社
伊豆国 99社
駿河国 18社
遠江国 20社
三河国 13社
尾張国 76社
美濃国 47社
飛騨国 12社
信濃国 34社
近江国 66社
丹波国 45社
丹後国 17社
若狭国 3社
越前国 12社
加賀国 12社
能登国 9社
越中国 19社
越後国 19社
佐渡国 2社
常陸国 29社
下野国 13社
上野国 19社
武蔵国 51社
安房国 6社
上総国 6社
下総国 14社
甲斐国 13社
相模国 15社
伊豆国 99社
駿河国 18社
遠江国 20社
三河国 13社
尾張国 76社
美濃国 47社
飛騨国 12社
信濃国 34社
近江国 66社
丹波国 45社
丹後国 17社
若狭国 3社
越前国 12社
加賀国 12社
能登国 9社
越中国 19社
越後国 19社
佐渡国 2社
常陸国 29社
下野国 13社
上野国 19社

式内社・式外社の違いとは?

延喜式神名帳に記載されている神社を「式内社」と呼ぶのに対して、記載されていない神社を「式外社(しきげしゃ)」と呼びます。式内社は国家によって公式に認められ、特別な待遇を受けていたのに対し、式外社は地元の信仰を基盤にした小規模な神社が多かったとされています。

この違いは、現代においても神社の格式を考える際のひとつの基準となっており、式内社は歴史的価値や格式が高いと評価されています。

現代に残る延喜式神社の意義

現在でも、日本各地には延喜式神名帳に記載された神社が多く残っています。それらの神社は延喜式神社(式内社)として歴史的・文化的価値が高いとされ、神社巡りや歴史散策をする人々の間で注目されています。

延喜式神社の具体例

  • 伊勢神宮(三重県):日本の総氏神、国家最高の格式を持つ神社
  • 賀茂別雷神社(京都府):上賀茂神社として知られ、京都を守護する重要な神社
  • 春日大社(奈良県):奈良時代から続く、春日神信仰の中心地
  • 大神神社(奈良県):三輪山を神体山とする古代からの自然信仰の神社
  • 香取神宮(千葉県)・鹿島神宮(茨城県):関東の重要な古社

これらの神社は「延喜式内社」という呼称とともに、その格式の高さを示す象徴として、今日でも多くの参拝者を集めています。

まとめ

延喜式は、奈良・平安時代における国家の実務を詳細にまとめた法典です。特に「延喜式神名帳」に記載された式内社は、現代の神社信仰の原点ともいえる重要な存在であり、歴史的な価値を今なお保持しています。延喜式を知ることで、古代の日本国家がどのような基準で神々を祭祀し、地域を管理していたかを理解することができるでしょう。