国学は、日本古来の文化や文学、精神性を研究する学問で、特に江戸時代に発展しました。外国思想に影響される前の「純粋な日本」を知るために、『古事記』や『日本書紀』などの古典を研究し、日本の独自性や価値観を見出すことが目的です。本記事では、国学の歴史や主要な学者、本居宣長が成した功績、日本文化への影響について詳しく解説します。
国学とは何か?
国学(こくがく)とは、日本の古代文化、文学、神話、国の成り立ちを研究する学問で、特に江戸時代に大きく発展しました。その目的は、儒教や仏教が伝来する以前の「純粋な日本の思想」や「古代の日本の姿」を明らかにすることにあります。日本固有の文化や精神を重視し、『古事記』や『日本書紀』、『万葉集』などの古典を通じて、日本独自の思想と価値観を追求しました。
国学の誕生と目的
国学の誕生は、日本の伝統や精神が時代の変化に伴い、外国思想の影響を受ける中で、日本独自の価値観を再確認する動きから始まりました。江戸時代は朱子学や仏教の影響が社会に浸透していましたが、これに対し、日本固有の精神や文化に立ち返ろうとする気運が高まりました。国学の目的は、外国思想の影響を排し、元来の日本人の思考や信仰に立ち返ることでした。
このため、国学者たちは『古事記』や『日本書紀』、『万葉集』など、日本の古代から残る記録を研究し、そこに刻まれた思想や精神性を解明することに専念しました。
国学で研究される古典
国学の中心となる研究対象は、日本の古典である『古事記』、『日本書紀』、『万葉集』などです。これらの古典は、古代の日本人の考えや文化が記録されたものであり、特に以下のような視点で研究されました。
古事記
古事記は、神代から伝わる日本の神話と歴史が記された最古の書物で、日本神話の世界観や日本の精神性を明らかにするための重要な資料です。
日本書紀
日本書紀は、古事記と並ぶ日本の歴史書で、日本の成り立ちや初期の歴史、皇室の系譜などを記録し、国学者はその内容を研究することで日本の国家観を追究しました。
万葉集
万葉集は、万葉仮名で記された日本最古の和歌集で、日本語独自の美意識や人間観が詠まれており、言葉や文化に込められた日本人の感性を解明するために研究されました。
国学の中心的な学統と主要な国学者
国学は、僧の契沖から始まり、荷田春満(かだのあずままろ)、賀茂真淵(かものまぶち)、本居宣長(もとおりのりなが)、平田篤胤(ひらたあつたね)らの研究により大成されました。彼らの貢献によって国学の学問体系が確立され、それぞれの国学者の思想と研究が後の日本思想に大きな影響を与えました。
契沖(けいちゅう)
契沖(けいちゅう)は、僧侶でありながら、『万葉集』や『古事記』を研究し、日本の古典研究の基礎を築きました。彼の研究は、後の国学者たちに大きな影響を与えました。
荷田春満(かだのあずままろ)
荷田春満(かだのあずままろ)は、国学の礎を築いた人物の一人で、日本の古語や神話の研究に力を入れ、日本固有の思想を探求しました。
賀茂真淵(かものまぶち)
賀茂真淵(かものまぶち)は、荷田春満の弟子で、『万葉集』の研究を通じて古代の精神や歌風に着目し、日本の「高雅」な精神を解明しようとしました。
本居宣長(もとおりのりなが)
本居宣長(もとおりのりなが)は、国学を大成させた代表的な学者で、『古事記伝』を著し、日本の古代精神の探求に尽力しました。宣長は「もののあはれ」という感性を重視し、日本の情緒豊かな精神を見出しました。
平田篤胤(ひらたあつたね)
平田篤胤(ひらたあつたね)は、本居宣長の思想を継承し、さらに神道と国学を結びつけた人物で、古代日本の宗教や霊的な世界観を探究しました。篤胤の研究は幕末や明治維新の思想形成に大きな影響を与えました。
本居宣長と『古事記伝』
国学の発展において、本居宣長の著した『古事記伝』は非常に重要な位置を占めます。宣長は、古典研究の方法として徹底した資料分析と深い洞察力を持ち、「もののあはれ」という日本独自の美意識を見出しました。宣長は「もののあはれ」を、自然に感じられる感動や感性の表現として捉え、日本人が持つ感性と心の美しさを重視しました。
『古事記伝』は日本の神話や歴史を日本人の視点から解明しようとする宣長の集大成であり、国学を学問として確立させるとともに、日本の文化と精神を知るための重要な書物とされました。
江戸時代における国学の広がり
江戸時代は日本の封建制度が安定し、文化的な発展が著しい時期でした。多くの人々が日本の伝統や価値観を見直すなかで、国学は民間にも広がりを見せました。また、藩校や私塾などで国学が教えられ、知識層や武士を中心に支持を集めました。
国学の研究を通じて、古代日本の独自性と誇りが再発見され、特に幕末から明治維新にかけては、日本の精神的な独立性や愛国心を高める思想として国学が注目されるようになりました。
まとめ 国学の意義と現代への影響
国学は、古代日本の文化や思想を明らかにすることで、日本人の精神的な独立や文化の純粋性を追求する学問として発展しました。江戸時代に広がりを見せ、後に明治維新の思想的な土台にもなりました。また、国学の精神や「もののあはれ」という日本的感性は、現代の日本文化や文学においても影響を与え続けています。日本の古代の精神と価値観を知り、日本人としてのアイデンティティを再認識するうえで、国学は重要な役割を果たしているのです。