古事記とは?日本最古の歴史書を書いた人、内容や時代背景

古事記は、日本最古の歴史書として知られ、712年に編纂された書物です。神々の国生み神話から日本列島の誕生、初代天皇から推古天皇に至るまでの歴史が描かれ、日本の神話や建国の物語が記録されています。古事記は日本神話の世界を後世に伝えるために編纂され、その内容は日本文化の根幹を理解する上で欠かせないものです。本記事では、古事記を編纂した人物やその内容、そして日本書紀との違いを詳しく解説し、古事記がどのような時代背景の中で成立したのかを紹介します。

古事記(こじき)とは?

古事記(こじき)は、日本に現存する最古の歴史書であり、奈良時代の712年に編纂された書物です。712年に編纂されたと歴史の教科書などでは習うのですぐに出来上がったと勘違いしてしまいますが、天武天皇の命によって始められてから約30年かけてまとめあげ、やっと712年に完成したという書物になります。

古事記には、宇宙の始まりから日本列島の誕生、神々の活動、そして古代の天皇たちの物語まで、日本神話や日本建国にまつわる出来事が描かれています。特に、神々の国生み神話から日本列島誕生の過程、イザナギイザナミの日本の建国に至るまでの物語が詳細に記されています。日本神話の重要な資料であり、日本文化や歴史を理解するうえで欠かせない存在です。

古事記を書いた人はだれか?(編纂)

古事記は、太安万侶(おおのやすまろ)によって編纂されました。古事記の編纂は、天武天皇の命によって始められ、その後、元明天皇の時代に完成されました。天武天皇は、国家の歴史や神話を後世に伝えるため、日本の神話や歴史を記録することを決意し、太安万侶に編纂を命じたとされています。

その際、稗田阿礼(ひえだのあれ)という人物が記憶していた日本の神話や歴史が元になりました。稗田阿礼は、天武天皇の命により神話や歴史を暗唱し、その内容を太安万侶が文章にまとめたことで、古事記が完成したと伝えられています。こうして、太安万侶の手によって古事記は書物として記録され、現代に至るまで伝えられてきたのです。

稗田阿礼(ひえだのあれ)とは?

稗田阿礼の性別や具体的な人物像については、実ははっきりと分かっていません。古事記の序文には「年は28、性別は定かでない」と記されており、稗田阿礼が男性だったのか女性だったのかも確定していません。また、稗田阿礼という名前自体が実在の個人を指すのか、あるいは何らかの役職名や称号であったのかも議論があるため、彼(彼女)の詳細な人物像については歴史的な謎が多く残されています。

編纂(へんさん)とは

編纂(へんさん)とは、書物や資料などを集めて整理し、一つのまとまった形に作り上げることです。

古事記の編纂においては、古代の神話や伝承、歴史的な出来事を口伝や記憶によって伝えられた内容をもとに、一つの書物にまとめる作業が行われました。このとき、記憶していた内容を整理し、文書に起こすことで、古事記という形に仕上げていったのです。編纂は、単に情報を集めるだけでなく、その内容を理解し、論理的な順序に並べ替えたり、必要に応じて補足や解説を加えたりする作業も含まれます。そのため、編纂には高度な知識と判断力が必要であり、最終的な作品の完成度は、編纂を担当する人の能力や視点によって大きく左右されます。

古事記の内容とは?

古事記は、序章と、上巻・中巻・下巻の三巻から構成されています。

古事記<序章>のあらすじ

古事記の序章では、まず天武天皇が国家の歴史や神話をまとめることを決意したことが記されています。天武天皇は、日本に伝わる神話や伝承、歴史を整理し、正しく後世に伝えることの重要性を感じ、記録するよう命じました。この命を受け、記憶力と知識に優れた稗田阿礼(ひえだのあれ)に神話や歴史を暗誦させ、その内容を伝えさせたとされています。

その後、天武天皇の死後、元明天皇の時代に、太安万侶が稗田阿礼の暗誦をもとに記録を行い、古事記を編纂しました。序章では、この編纂作業が元明天皇の勅命によって進められたことが強調され、太安万侶が自身の責任において正確に書き記したという姿勢も示されています。さらに、序章では、古事記が日本の神話や歴史を正確に伝えるために書かれたものであり、天皇を中心とした日本国家の正統性を示すことを意図していることが示されています。神々の時代から天皇の時代に至るまでの歴史を記録することで、古事記は日本の文化や伝統を後世に伝えるための重要な書物となったことが、序章によって明らかにされています。

古事記<上巻(上つ巻)>のあらすじ

上巻では、宇宙の創世、天地初発から始まり、高天原(たかまがはら)という神々の住む天上世界から、日本列島の誕生やイザナギとイザナミの神話、天照大御神スサノオノミコトなど主要な神々の物語が描かれています。ここには、神々が織りなす国造り国譲りなど出来事や神々の誕生、闘争、そして日本列島の形成といった、日本神話の根本的なエピソードが多く含まれています。

古事記<中巻(中つ巻)>のあらすじ

中巻は、初代天皇である神武天皇から第15代応神天皇までの歴史が記されています。ここでは、日本列島が神々によって統治された時代から、徐々に人間の支配が確立され、天皇が国家の統治者となる過程が描かれています。特に、神武天皇の即位に至るまでの戦いや葛藤など、神話的な要素と現実的な歴史が交錯する内容が展開されています。

古事記<下巻(下つ巻)>のあらすじ

下巻では、第16代仁徳天皇から第33代推古天皇に至るまでの天皇の系譜とその治世が描かれています。この巻では、ヤマト政権が力を強めて日本の統治体制が確立されていく過程が詳しく記されています。特に、推古天皇の時代には、聖徳太子の活躍などが描かれており、国家の統一や律令制度の基盤が築かれていく様子が記述されています。

古事記と日本書紀の違い

項目 古事記 日本書紀
編纂の目的 日本神話や国の成り立ちを後世に伝えるために編纂され、神話や伝承に焦点を当てている。 日本の歴史を公式に伝えるために編纂され、国家としての正史を記録することを目的としている。
編纂時期と編纂者 天武天皇の時代に編纂の計画が始まり、712年に太安万侶によって編纂された。元明天皇に献上された。 天武天皇の時代に計画が始まり、実際に編纂が進められたのは天武天皇の死後しばらく経ってから。天武天皇の皇子である舎人親王らによって編纂され720年元正天皇の時代に完成した。
内容のスタイル 和文体で書かれており、日本語の音を用いて表現されている。 漢文体で記されており、中国の歴史書に近い書き方をしている。
内容の違い 神話を中心に感情豊かな物語としての側面が強調されている。 日本の正史として神話から歴史までを体系的に記述しており、多くの異伝や異説も併記されている。

古事記は、日本神話や国の成り立ちを後世に伝えることを目的とし、神話や伝承に焦点を当てて編纂されたのに対し、日本書紀は日本の歴史を公式に伝えるための国家の正史として編纂されました。編纂時期にも違いがあり、古事記は712年に太安万侶によって編纂され、日本書紀は720年に舎人親王らによって編纂されています。

また、内容のスタイルにも違いが見られ、古事記は和文体で書かれており、日本語の音を用いて感情豊かな物語が展開されるのに対し、日本書紀は漢文体で記述されており、中国の歴史書に近い形式で書かれています。内容も、古事記は神話を中心に描かれている一方で、日本書紀は神話から歴史までを体系的に記述し、異伝や異説を併記していることが特徴です。

古事記・日本書紀の計画から完成までの時代と天皇

古事記と日本書記はどちらも天武天皇の命で計画されてきた書物ですが、その計画から長い期間をかけて編纂されてきたことがわかります。編纂の過程では天皇の代替わりもあり、当時のことを考えると、天皇の代替わりや、その周りの権力者、編纂に携わった人々も入れ替わりがあったことも考えられ、影響があったことは示唆されます。

40代目 天武天皇 テンム 673年~686年 飛鳥時代
41代目 持統天皇 ジドウ 690年~697年 飛鳥時代
42代目 文武天皇 モンム 697年~707年 飛鳥時代
43代目 元明天皇 ゲンメイ 707年~715年 飛鳥時代奈良時代
44代目 元正天皇 ゲンショウ 715年~724年 奈良時代

古事記の時代背景

古事記が編纂された奈良時代は、日本が国家としての体制を整えつつあった時期でした。天武天皇の時代に始まった律令制度の整備や仏教の普及、中央集権的な国家体制の確立が進む中で、自国の神話や歴史を記録し、伝えることが重要視されていました。この背景において、天皇を中心とする国家の正当性や伝統を示すために、古事記が編纂されることとなりました。

天武天皇の時代は、国家の統一や安定を図ることが重要な課題となっており、その一環として日本の伝統や神話、歴史を後世に伝える必要があったのです。こうして古事記は、日本の成り立ちや神々の物語を後世に伝えるための重要な書物として完成されました。

現存する古事記の主要な写本

古事記の本物が見たいという方もいますが、飛鳥時代~奈良時代に編纂されたものなので当時の第一版のようなものは発見されていないです。現存する古事記の写本の中で、特に有名なものには次のようなものがあります。

真福寺本(しんぷくじぼん)

室町時代に書かれた写本で、愛知県名古屋市にある真福寺で長い間保管されてきました。現在は重要文化財に指定されており、日本最古の古事記写本とされています。

契沖本(けいちゅうぼん)

江戸時代の僧侶で国学者でもあった契沖によって編纂・校訂された写本です。契沖本は契沖が多数の写本を比較し、原文に忠実な形で校訂したもので、後の国学者や研究者に大きな影響を与えました。

古事記の内容は事実?

古事記の内容は、主に神話や伝承に基づいており、史実として認識されているものではありません。古事記は天地開闢(てんちかいびゃく)から始まる神々の物語や、日本列島の形成、初代天皇である神武天皇に至るまでの神話的な出来事を描いています。これらの神話は、日本の精神的な文化や価値観を伝える重要な物語ですが、実際の歴史的事実とは異なります。ただし、古事記に登場する一部の天皇や出来事については、後の時代に史実と結びつけられる場合もありますが、全体としては神話や伝説の性格が強く、史実とは異なるものとされています。

まとめ

古事記は、日本最古の歴史書であり、神々の世界から日本列島の誕生、そして天皇の系譜に至るまでの物語が描かれています。その内容は、日本の文化や信仰、歴史の根源を知るために欠かせないものであり、現代に至るまで多くの人々に読み継がれています。また、日本書紀との比較を通じて見ることで、古事記の持つ独特な価値や、日本神話の魅力をより深く理解することができます。古事記は日本の精神や文化、歴史を理解するうえで欠かせない書物であり、その価値は今もなお輝き続けています。