万葉集とは?作者・何時代・特徴的な歌・代表作一覧

万葉集は、日本最古の歌集であり、奈良時代に編纂された約4500首の和歌が収められています。この歌集には、天皇や貴族から庶民、防人(さきもり)に至るまで、さまざまな人々が詠んだ歌が集められており、自然や恋、家族、国家への思いが率直に描かれています。柿本人麻呂や額田王、大伴家持、山部赤人などの有名な歌人たちの作品も多数含まれており、それらの歌は、古代日本の情景や感情を現代に伝えています。この記事では、万葉集の代表的な歌を通じて、その魅力を解説します。

万葉集とは?

「万葉集(まんようしゅう)」は、日本最古の歌集であり、奈良時代に編纂されました。全20巻、約4500首もの歌が収められており、天皇から庶民に至るまで、さまざまな立場の人々が詠んだ和歌が集められています。万葉集は、日本語の純粋な形である大和言葉が多く使われ、古代の日本の自然、感情、宗教的観念が生き生きと描かれています。

万葉集とは?

万葉集の背景と作者

万葉集は、主に奈良時代(710年~794年)に成立した歌集です。編纂者は定かではありませんが、最後の編纂者として、大伴家持(おおとものやかもち)が深く関わっていたと考えられています。万葉集には、さまざまな立場や時代背景を反映した歌が詠まれており、国を治める天皇や皇族、そして貴族から、庶民、さらには防人(さきもり)のような人々の歌までが収められています。

万葉集の特徴

万葉集の特徴は、大和言葉を基盤とした日本固有の表現と、古代日本人の素朴で率直な感情が表現されている点です。

また、万葉集には、万葉仮名と呼ばれる漢字を使った表記が特徴的で、漢字の音や意味を借りて日本語を書き表す方式が使われています。万葉集の詠まれた歌は、自然や四季を歌ったもの、恋愛の感情をストレートに表現したもの、国の安定を祈る歌など、非常に多彩です。

万葉集の代表作一覧

万葉集には多くの代表作がありますが、以下に特に有名な作品と歌人をまとめます。

歌人 代表作 特徴
大伴家持 春の野に 霞たなびき うぐいすの 声のどけくも 咲ける梅が香 春の穏やかな風景を描写
山上憶良 銀も金も玉も 何せむに 勝れる宝 子にしかめやも 子への深い愛情を詠んだ歌
柿本人麻呂 東の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ 壮大な自然の描写
額田王 あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る 恋の別れと自然の美しさを詠む
大伴家持 秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花 秋の野の草花を詠んだ歌
山上憶良 貧窮問答歌(貧困についての問いかけと答え) 貧困に苦しむ民の姿を描写
柿本人麻呂 淡路の 野島の崎の 浜風に 妹待つ吾は 濡れぬ袖かも 恋人を待ち焦がれる悲しみ
額田王 み吉野の 山の白雪 踏み分けて 入りにし人は いまぞ帰らぬ 吉野の美しい自然と別れを詠む

万葉集に登場する特徴的な歌人・歌

万葉集は日本最古の歌集で、約4500首の和歌が収められており、天皇、貴族、武人、庶民、さらには防人(さきもり)など、さまざまな立場の人々が詠んだ歌が集められています。万葉集の多様なテーマと表現は、古代日本人の心の動きや風景、感情を豊かに表現しています。

大伴家持(おおとものやかもち)

万葉集の編纂にも深く関わった大伴家持は、武将でありながら繊細な歌を数多く詠んでいます。彼の歌には、自然への愛情や、家族や友人を思う気持ちが繊細に描かれています。

春の野に 霞たなびき うぐいすの 
声のどけくも 咲ける梅が香

この歌では、春ののどかな風景を描き、野にたなびく霞と、うぐいすの声、咲き始めた梅の花の香りを巧みに組み合わせています。

山上憶良(やまのうえのおくら)

山上憶良は、社会への洞察や庶民の暮らしを詠んだ歌が多く、特に「貧窮問答歌」など、当時の貧困を率直に表現した作品が知られています。また、家族への愛情や慈悲心に溢れた歌も多く詠んでいます。

銀も金も玉も 何せむに 
勝れる宝 子にしかめやも

「銀も金も玉も大切だが、それらよりも我が子に勝る宝はない」という、父親としての深い愛情を詠んだ歌です。シンプルでありながら、強い親心を感じさせます。

柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)

柿本人麻呂は、万葉集を代表する歌人であり、特に壮大で荘厳な風景を詠んだ歌が特徴です。彼の作品は、神話的なスケールで描かれることが多く、天皇や国の威厳を歌った作品が多いです。

東(あずま)の 野にかぎろひの 立つ見えて
かへり見すれば 月傾きぬ

この歌は、東方の空にかぎろひ(夜明けの光)が立ち、後ろを振り返ると月が沈んでいく様子を描いた、壮大な自然の描写が印象的な作品です。

額田王(ぬかたのおおきみ)

額田王は、宮廷歌人であり、天智天皇や天武天皇に仕えました。恋の歌や自然を詠んだ歌が多く、繊細で美しい表現が特徴です。

あかねさす 紫野行き 標野(しめの)行き 
野守は見ずや 君が袖振る

この歌では、赤く光る紫野を行く女性が、愛する人に別れを告げながら袖を振って見送る姿を描いています。額田王は、自身の恋心や悲しみを、鮮やかな自然の色彩とともに巧みに詠みました。

山部赤人(やまべのあかひと)

山部赤人は、自然の風景を詠むことに秀でた歌人で、万葉集でも特に風景描写の美しさが際立っています。

田子の浦ゆ うち出でてみれば 真白にぞ
富士の高嶺に 雪は降りける

現代語訳:田子の浦から外へ出て見ると、富士の高嶺に真っ白な雪が降り積もっているのが見える。
解説:富士山の雄大な姿を描いたものです。雪が降り積もった真っ白な富士の姿を詠んだ赤人の描写力が際立ちます。

額田王(ぬかたのおおきみ)

額田王は、宮廷歌人として恋や自然を詠んだ作品で知られています。彼女の感情のこもった恋歌は、万葉集でも特に注目されています。

熟田津に 船乗りせむと 月待てば
潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな

現代語訳:熟田津で船に乗ろうとして月が昇るのを待っていたら、潮の流れも整った。さあ今、船を漕ぎ出そう。
解説:恋の別れの情景を月や潮の流れに託して詠んだ歌です。自然と人の心情が一体となる描写が美しく、額田王の代表作の一つです。

志貴皇子(しきのみこ)

志貴皇子は、万葉集の中でも繊細な自然の美しさを表現した歌を多く残しています。

淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に
幾夜寝覚めぬ 須磨の関守

現代語訳:淡路島を渡る千鳥の鳴き声に、幾度も夜に目を覚ました須磨の関の守り人。
解説:須磨の関にいる守人の孤独を、千鳥の鳴き声を通して描いています。風景と感情が見事に融合した歌です。

大伴旅人(おおとものたびと)

大伴旅人は、万葉集の巻五に梅花の歌三十二首を載せた「梅花の宴」を行ったことで知られます。彼の歌は、自然に対する深い愛情と、旅人としての視点から詠まれたものが多いです。

我が園に 梅の花散る ひさかたの
天より雪の 流れ来るかも

現代語訳:我が庭に梅の花が散っている。それは天から雪が流れてくるように見える。
解説:梅の花が散る様子を雪に見立てた美しい比喩表現です。大伴旅人の繊細な自然描写が光る一首です。

防人(さきもり)歌

防人歌は、東国から防人として九州に送られた兵士たちが詠んだ歌で、彼らの苦しみや故郷への想いが率直に詠まれています。

父母が 頭かき撫で 幸くあれて
言ひし言葉ぜ 忘れかねつる

現代語訳:父や母が私の頭を撫でながら「無事でいろ」と言ってくれたその言葉を、どうしても忘れることができない。
解説:故郷を離れ、防人として任務に向かう際の親との別れの情景を詠んだ歌です。切ない感情がまっすぐに表現されています。

元号「令和」のもとになった万葉集の歌

元号「令和」のもとになった歌は、万葉集にあります。これは、万葉集の巻五に収められている序文に基づいています。

この歌は、大宰府の長官であった大伴旅人(おおとものたびと)が、梅の花を題材にした「梅花の宴」で詠んだ歌集の序文です。その序文の中に、「令和」の語源となった表現が含まれています。

万葉集の序文(現代語訳)

「時に、初春の令月にして、気淑(きよ)く風和(やわ)らぐ。」

この文は、梅の花が咲き誇る季節を描写し、「令月(れいげつ)」とは、めでたい月、「風和(ふうわ)」とは、風が穏やかに吹くという意味を持っています。ここから、「令和」という元号は、「美しく調和する」という意味を込めて制定されました。

令和は、日本の古典である万葉集から引用されたことで、伝統を尊重しながらも、新しい時代の調和を象徴する元号として知られています。

まとめ

万葉集は、日本最古の歌集であり、古代日本人の感情や自然観、社会的な情景を豊かに描写した作品が収められています。大伴家持や山上憶良、柿本人麻呂、額田王など、多くの著名な歌人が万葉集にその名を刻み、彼らの詠んだ歌は今でも日本人の心に深く響いています。自然の美しさや人々の純粋な感情が表現されている万葉集は、古代から現代に至るまで愛され続ける日本の文化遺産です。