水波能売命とは?(みずはのめのみこと) 水の女神の由来

水波能売命(みずはのめのみこと)は、日本神話に登場する水の女神です。『古事記』『日本書紀』では「罔象女神」「弥都波能売神」などの多彩な表記で登場し、伊耶那美神の尿から生まれたという独特な神話的背景を持っています。この記事では、水波能売命の由来や名前の意味、各種文献における解釈や諸説をわかりやすくご紹介します。

水波能売命とは?

水波能売命(みずはのめのみこと)は水を司る女神であり、『古事記』や『日本書紀』においては、伊耶那美神(いざなみのかみ)が火之迦具土神(ほのかぐつちのかみ)を生んだ際に病に伏した時の尿から成った神として描かれています。

『古事記』では「弥都波能売神(みつはのめのかみ)」、
『日本書紀』では「罔象女神(みつはのめのかみ)」または「水波能売神(みつはのめのかみ)」とも表記され、いずれも「みつはのめ」と読ませます。

また、『延喜式神名帳』には「弥都波能売神社」という名で記載され、実際の祭祀が行われていたことも知られています。

名称と表記の由来

水波能売命の名前には複数の表記があり、それぞれの文献によって異なります。

罔象女神(みつはのめのかみ)

『日本書紀』で使われている表記です。「罔象(もうしょう)」とは漢籍の『淮南子(えなんじ)』氾論訓にある「水生罔象(水より罔象生ず)」に由来し、水の精霊を意味します。

弥都波能売神(みつはのめのかみ)

『古事記』における表記で、「みつは」は「水走(みつはしり)」や「水つ早(みずつはや)」など水の動きを表すとする説や、水つ蛇(ミヅハハ=水の蛇)から転じたとする説もあります。

水波能売神(みつはのめのかみ)

一般に神社などで広く使われている表記です。「水の波(みずのなみ)」や「水際(みつきわ)」を示す説もあります。

誕生の背景とその神話的意義

水波能売命は、伊耶那美神が火の神(火之迦具土神)を生んだ際に病んで伏せてしまい、その苦しみの中で排泄された尿から成った神とされています。

伊耶那美神が病み臥した際の嘔吐物・排泄物から生まれた神々の意義については、主に以下の諸説があります。

火山噴火説

火山の噴火活動を象徴する神々としての解釈です。伊耶那美神の苦痛が火山活動を表すとされ、水波能売命は火山活動に伴う温泉や冷泉の湧出を示すとされます。

農耕・焼畑農業説

尿や糞が農業肥料として用いられたことから、農耕の繁栄を象徴する神としての意味を持つという説です。

五行思想の影響説

中国の五行思想(木・火・土・金・水)を反映し、火(火之迦具土神)に対する水(水波能売命)という対比構造で捉える説もあります。

鎮火祭祀説

火災や火山の鎮火を願う祭祀に由来し、水の神である水波能売命が火を鎮める神格として位置づけられたとする説です。

香具山祭祀説

奈良・香具山の古代祭祀と関連して水の神が祀られ、その影響から神話が形成されたとする説もあります。

また、『日本書紀』の各異伝(一書二、一書三、一書四)ではそれぞれ構想が異なり、「小便から成った神」「水神としての呼称」などの記述に差異があります。こうした違いが、水波能売命の解釈に幅を持たせています。

神としての性質と諸説

水波能売命は主に以下のような性質や解釈が考えられています。

灌漑・農耕神説

名前の「みつは(水つ早、水走)」から灌漑用の水を走らせる女神、または農業用水を司る神としての性質があります。

出始めの水の神説(万葉集説)

『万葉集』に「始水(はなみづ)」という表現があり、水が湧き出る最初の水源を示す女神と解釈する説です。

水際(みつきは)神説

河川や泉の水際に宿る、穏やかな清水の精霊として崇拝された女神と考える説です。

ミヅチ(水蛇)神説

水の蛇を意味する「ミヅチ」と関連し、水中の荒ぶる霊(ミヅチ)に対して、穏やかな水の精霊を指すとする説です。

 

『延喜式』や現代の祭祀との関連性

『延喜式』神名帳に記載されている阿波国美馬郡の「弥都波能売神社」や下総国相馬郡の「罔象女大神」を祀る「蛟蝄神社(みつちじんじゃ)」など、実際の祭祀の記録が残されています。これらは、古代から地域の水の守り神として信仰され続けてきた証拠とも言えます。

君の名は。では「宮水三葉(みやみずみつは)」との関連

新海誠監督の映画 君の名は。では「宮水三葉(みやみずみつは)」という主人公が登場しますが、Twitter(現X)において三葉の名前の由来は日本神話における水の女神である弥都波能売神(みずはのめのみこと)から取ったことを語っています。

まとめ

水波能売命(みずはのめのみこと)は、水を司る女神として多様な解釈を持つ、日本神話の重要な神の一柱です。その誕生にまつわる複雑な背景や表記の由来、神格としての性質などを知ることは、日本の古代信仰や文化への深い理解へと繋がるでしょう。