神職が奏上する祝詞の種類一覧

祝詞(のりと)は、神道において神前で唱えられる言葉であり、祭祀や祈願、祓いなど、さまざまな場面で神職が奏上します。その多くは日本古来の言霊信仰に根ざしており、荘厳な言葉で神々に願いを伝える重要な役割を果たしています。現在、神社本庁に属する神職たちが実務で用いる祝詞は、神道の正統な儀礼体系に則ったもののみであり、民間で言われるようなスピリチュアル系の創作祝詞とは一線を画します。

この記事では、神社本庁をはじめとする正式な神社祭式で用いられる祝詞の主な種類とその内容について、一覧と解説を通して紹介します。

神職が実際に用いる祝詞の主な種類と目的

神社祭祀において神職が奏上する主要な祝詞の種類をまとめた一覧表です。

祝詞名 主な用途・目的 奏上される場面の例
大祓詞(おおはらえのことば) 穢れ・罪の祓い 大祓式(6月・12月)、神前での祓い清め
祓詞(はらえことば) 祝詞奏上前の場の清め あらゆる祝詞の前段階として唱えられる
祝詞本文(しゅくしほんもん) 一般的な神事の中核となる祝詞 通常の例祭、祈願祭など
告文(こくもん) 神に祭祀の趣旨を伝える前置き 祭典冒頭、祝詞本文に続けて奏上される
起請文(きしょうもん) 神に誓いを立てる祝詞 奉告祭、祈願祭、誓約の際
奉告文(ほうこくもん) 成就・完了を神に報告する祝詞 工事完了奉告祭、結婚式後の奉告など
神楽詞(かぐらことば) 神楽奉奏に合わせた奉唱詞 神楽奉納時、舞に合わせて唱えられる
遷座祝詞(せんざのりと) 神の御霊を新たな社へ遷す祝詞 遷座祭、新殿完成時
神葬祭祝詞(しんそうさいのりと) 神道形式での葬送に用いる祝詞 通夜祭、葬場祭、埋葬祭など神葬祭一連の儀式

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各祝詞の内容と特徴

大祓詞(おおはらえのことば)

もっとも有名な祝詞の一つであり、6月と12月の大祓式で全国の神社で奏上されます。人間が知らずに犯す罪や穢れを清め、心身の浄化と国家・社会の安寧を願う内容です。全体で500字を超える長文ですが、神職の基礎教育では最初に暗唱を求められる基本中の基本といえる祝詞です。

祓詞(はらえことば)

祝詞を奏上する前段階として、場や人を清めるために用いられる短い祝詞です。「掛けまくも畏き…」に始まり、天津罪・国津罪の除去を祈る言葉が含まれます。多くの神事において、最初に唱えられる決まり文句的な存在で、奏上者自身の清めも含意されています。

祝詞本文(しゅくしほんもん)

「祝詞本文」は、祭儀ごとに内容が異なる個別祝詞の総称です。たとえば、例祭、祈願祭、地鎮祭、竣工祭、安産祈願祭などにおいて、祭神への感謝・願意・結びの辞を組み合わせて構成されます。神社によって文面が調整される実用的祝詞であり、神職がその都度「奏上文」を作成することが一般的です。

告文(こくもん)

告文は、祭儀の冒頭や祝詞本文の前段階で、神に対して祭祀を行う旨を「報告」する役割を持ちます。「今日の佳き日をもって、かくかくの儀を執り行います」という構成になっており、神事の趣旨を明確にする意味があります。

起請文(きしょうもん)

誓約や神への誓いの際に用いられる祝詞で、「かく誓い申し上げますゆえ、神明におかれましては…」というような構成になります。重要な奉告祭や、古くは官人の忠誠宣誓などにも用いられました。現代では、地鎮祭や結婚に関する奉告祭で奏上される場合があります。

奉告文(ほうこくもん)

祭祀の成果や願意の成就を、神に「報告する」祝詞です。たとえば竣工祭や御遷宮の後、願いが叶ったことを神に感謝し伝える形式で用いられます。「○○の工事、無事に成就いたしましたので奉告申し上げます」といった内容で奏上されます。

神楽詞(かぐらことば)

神楽(かぐら)の舞とともに奏上される詞(ことば)で、祝詞というより「歌詞」のような性格を持ちます。神の御魂を迎えるために、神楽の節に合わせて繰り返し唱える構成が多く、地域や流派によって大きく異なる伝承もあります。祝詞の中ではやや特異な存在ですが、神事芸能の一環として極めて重要です。

遷座祝詞(せんざのりと)

神の御霊を仮殿から本殿へ、新社殿へと「遷す」際に用いられる儀式で奏上されます。遷座祭は神社の新築や改修、御神体の移動にあたって行われる神聖な行事であり、この祝詞は神霊の移動を恭しく申し上げる極めて厳粛な内容となっています。

神葬祭祝詞(しんそうさいのりと)

神道形式の葬儀である「神葬祭」において用いられる祝詞群です。仏式とは異なり、死を「穢れ」として忌避する文化の中でも、故人を祖霊として敬い祀るという神道の考えに基づいて構成されます。通夜祭、葬場祭、埋葬祭、帰家祭など、各段階に応じて内容が異なります。

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祝詞は神事の核であり、神との対話の言葉

祝詞は単なる文言ではなく、神道における神人一体の理念を体現する大切な言霊です。神職が奏上するこれらの祝詞は、神社祭式の格式や目的に応じて使い分けられ、いずれも神と人との「誠のやりとり」として深い意味を持ちます。

現在も全国の神社で日々奏上されているこれらの祝詞は、古代からの日本文化と精神の継承そのものであり、祈りと感謝、清浄と秩序を尊ぶ神道の本質を象徴しています。