呪術とは?日本での呪術と呪術師の歴史

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呪術とは、言葉や印、器物や作法を媒介に目に見えない力の働きを招いたり防いだりする実践を指します。日本では、神道の祓と祝詞、仏教の加持祈祷、陰陽道の占筮や方位術、修験道の験力、民間のまじないが重層して発展してきました。

本記事では、古代律令国家の制度化から平安の陰陽師、中世の山伏や御霊鎮魂、近世の巫女・口寄せ、近代以降の変容までをたどり、呪術と宗教・医療・法の境界や今日的な位置づけを見通しよく解説します。

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呪術とは何か

呪術とは、言葉や印、物品や作法を媒介として、目に見えない力の影響を招いたり防いだりしようとする実践を指します。災厄の回避や病の平癒、豊穣や勝利の祈願など、目的は多岐にわたります。日本では神道の祓や祝詞、仏教の加持祈祷、修験道の験力をはじめ、陰陽道の占筮や方位術、民間のまじないが重層的に共存してきました。宗教と呪術はしばしば重なりますが、呪術はより具体的で短期の効果を期す実践として理解されてきました。

呪物とは?

古事記』や『日本書紀』に記された神話には、明確な呪物という語は登場しないものの、「神宝(しんぽう)」や「神の道具」として、特別な力を持った物が多数描かれています。

たとえば、天照大御神が天岩戸に隠れたとき、八咫鏡(やたのかがみ)、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)などの神器が登場します。

これらは単なる装飾品や武器ではなく、神の意志を伝える媒体であり、人間と神を結ぶ象徴的な存在です。呪術的というより「神威(しんい)」を帯びた存在としての呪物に近いといえるでしょう。

また、スサノオノミコトが出雲で八岐大蛇を退治した際に得た草薙剣(のちの天叢雲剣)は、後に朝廷の象徴として重宝されます。このように、武器や装身具に神格や呪的性格が付与されているのは、日本神話の一つの特徴です。

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日本の呪術の源流

弥生時代から古墳時代にかけて、祭祀と占いは政治権力の正統性と結びつきます。巫女や巫覡が神示を伝え、穢れを祓う行為が共同体の秩序維持に機能しました。古墳副葬の祭器や銅鏡には、邪気を退け吉祥を招く象徴が込められ、自然と霊の媒介として呪術的観念が表現されています。

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古代国家と呪術の制度化

律令国家は、祈年祭や新嘗祭などの国家祭祀を整備し、天変地異や疫病への対策として祈祷を制度化しました。宮中には陰陽寮や典薬寮、さらに病や祟りを鎮める咒禁師が置かれ、占星や暦、方違えの実務が政務と連動します。呪術は私的な術ではなく、公的権威の一部として運用され、政治と宗教の結節点を担いました。

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古代における制度と役職

制度や役職 内容 役割
陰陽寮 暦と天文、卜占と方位を司ります 祭礼日取りと政務判断の基盤となりました
咒禁師 病厄や祟りに対する護符と咒を行います 宮中の災厄対策と療治に関与しました
祈年祭と御霊会 豊穣祈願と怨霊鎮魂の国家行事です 社会不安を儀礼で吸収しました

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陰陽道と陰陽師

平安期の陰陽道は、陰陽五行と道教要素、在来の祭祀が融合した学芸として成熟します。賀茂氏や土御門家の系譜に連なる陰陽師は、占筮や天文、方位の善し悪しを判じ、方違えや遷座の時機を定めました。呪符や式神は中世以降の説話に色濃く描かれますが、実務の核心は暦と占術にあり、国家や貴族の危機管理に直結していました。

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仏教と加持祈祷

奈良時代から平安時代にかけ、密教の導入により真言や印契、護摩供などの加持祈祷が広まりました。病気平癒や延命、国家安泰を祈る法会は、僧侶の修行と結びつくことで呪術的効果を制度化します。仏典の陀羅尼や金剛界の諸尊は、災厄を退け福徳を招く力を持つと理解され、神道の祓との協働も各地で見られました。

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中世の呪術と修験道

中世には、山岳修行を核とする修験道が地域社会に深く浸透します。山伏は峰入りや護摩によって験力を錬り、疫病退散や雨乞い、武運長久の祈祷を請け負いました。御霊信仰が広がるなか、呪術は怨霊の鎮魂と結びつき、社寺の縁起や祭礼が災厄の語りを受け止める場として機能します。

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近世の呪術と巫女や口寄せ

江戸時代には、陰陽道が武家政権の管理下で公的学芸として存続しつつ、町人社会には祈祷師や巫女、口寄せが活躍しました。東北のイタコに代表される口寄せは先祖や神霊の声を伝える役割を担い、薬種や護符とともに民間療法の一部を構成します。寺社の祈祷札や厄除札は、都市と農村の双方で流通し、日常生活に呪術が浸透しました。

近代以降の変容と法制度

明治維新後、陰陽寮は廃され、陰陽道は公的制度から外れます。神仏判然令により祭祀と仏事は分離されますが、民間の祈祷やまじないは形を変えて継続しました。国家神道期には公的儀礼が再編され、戦後は宗教の自由の下で多様な祈祷文化が共存します。一方で医療や詐欺に関わる問題も生じ、霊感商法などへの注意喚起が社会的議題となりました。

呪術と医学や法の境界

呪術は人々の不安を扱い、心身の整えに寄与してきましたが、医学的治療の代替にはなりません。歴史的には祈祷と療治が重なっていましたが、現代では医療と宗教の役割分担が前提となります。護符や祈祷を希望する場合でも、医学的根拠のある治療と併行し、過度な金銭要求や不安の煽動には慎重であることが大切です。

用語整理

用語 説明 典型的な担い手
祓と祝詞 穢れを払い清める神道儀礼です 神職
加持祈祷 真言や印契、護摩で諸願を祈る密教法です 僧侶
陰陽道 暦と天文、卜占と方位を学芸化した体系です 陰陽師
修験道 山岳修行で験力を得て祈祷を行います 山伏
まじない 折口や護符など民間の実践です 巫女や民間の術者
口寄せ 霊や神の言葉を媒介すると理解されます 巫女やイタコ

まとめ

日本の呪術は、神道の祓と祝詞、仏教の加持祈祷、陰陽道の占術、修験道の験力、民間のまじないが重層的に交差し、社会の不安を受け止める実践として発展しました。古代の制度化から中世の御霊鎮魂、近世の都市民俗、近代以降の再編に至る流れを踏まえると、呪術は単なる迷信ではなく、共同体の危機管理とケアの文化として機能してきたといえます。現代においても、科学と制度を前提にしつつ、祈りや儀礼の役割を適切に位置づけることが、日本の宗教文化を理解する鍵となります。

 

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