葦原中国とは?日本の地上世界のこと(あしはらのなかつくに)

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日本神話には、高天原や黄泉国といった超自然的な世界が描かれますが、その間に位置づけられるのが人々の暮らす地上世界「葦原中国(あしはらのなかつくに)」です。『古事記』や『日本書紀』に繰り返し登場し、天津神と国津神の対立や国譲りの舞台となったこの世界は、単なる地名ではなく古代日本人の宇宙観を映し出す象徴でした。

この記事では、葦原中国の意味や語源、古事記と日本書紀における描写の違い、大国主神との関わりを解説し、その歴史的・神話的意義を明らかにします。

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葦原中国とはどこの場所か

葦原中国(あしはらのなかつくに)とは、日本神話に登場する世界観の一部で、地上世界を指す言葉です。

古事記日本書紀においては、天上の世界である高天原(たかまがはら)地下の世界である黄泉国(よみのくに)と並び、人間が生活する現実の地を表現する神話的な地名として描かれています。「葦原」とは葦の生い茂る土地を意味し、水辺や湿地が広がる日本列島の自然環境を反映した言葉だと考えられています。「中国」という表現は「真ん中の国」という意味で、天界と冥界の間にある人間の世界を位置づけるものです。

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神話における葦原中国

神話の中では、葦原中国は天津神(あまつかみ)と国津神(くにつかみ)の間で争奪の対象となった舞台です。高天原の神々は葦原中国を統治すべく鹿島神(武甕槌神)香取神(経津主神)などの武神を遣わし、地上に勢力を持つ国津神たちはそれに抵抗しました。国譲りの物語では、大国主命が天津神の使者に国を譲り渡すことで、葦原中国は天津神の支配下に入ります。この出来事は、日本の神話体系において天皇家の正統性を裏付ける重要な物語とされています。

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葦原中国の語源と意味

「葦原中国」という名称は、日本の地理的特徴を強く反映しています。古代の日本は湿地帯が多く、稲作や漁労が生活の基盤となっていました。葦はそうした水辺の風景を象徴し、神話に登場する国名としてもふさわしいものでした。「中国」という言葉は、中国大陸の「中華」と同様に、世界の中心という意味合いを持ちます。ただし日本神話においては、天界と黄泉国の中間にあるという位置づけが強調されており、宇宙観の中の中心世界を意味する言葉として使われていました。

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歴史的文献に見る葦原中国

『古事記』や『日本書紀』では、葦原中国という表現が繰り返し登場します。特に『日本書紀』では、天津神が葦原中国を平定する過程が複数の「一書」に記されており、各地の伝承や異伝を反映していることがうかがえます。また、葦原中国は単なる地名ではなく、古代人が自らの住む現実世界を神話的に位置づけた象徴的な言葉として理解されています。つまり、葦原中国は古代日本人の世界観そのものであり、神話を通じて自らの社会や土地に意味づけを行っていたと考えられます。

古事記と日本書紀における葦原中国の記述の違い

『古事記』と『日本書紀』はいずれも葦原中国を「人の住む地上世界」として描いていますが、その記述には違いが見られます。『古事記』では、大国主命が国造りを終えた地として葦原中国が描かれ、そこに天津神の使者が降りてきて国を譲るよう迫る物語が中心となります。

一方、『日本書紀』では複数の「一書(あるいは異伝)」が並記されており、天津神が武力を用いて葦原中国を平定する様子や、従わない神々の存在などが詳しく語られています。特に「天津甕星(あまつみかぼし)」のように最後まで抵抗した神の存在が記されている点は、『古事記』には見られない特徴です。こうした違いは、『古事記』が物語としての連続性を重視したのに対し、『日本書紀』が政治的・正統性を強調するために異伝を整理して記録したことを示していると考えられます。

大国主神と葦原中国

葦原中国の神話において、大国主神は中心的な存在です。『古事記』では、少彦名神とともに国作りを成し遂げ、農耕や医療、文化の基盤を整える神として描かれています。彼の営為によって葦原中国は豊かに発展し、人々が生活できる国土として完成しました。しかし、その国はやがて天津神によって要求されることになります。国譲り神話では、大国主神は自らの子や家臣を通じて天津神の意思を受け入れ、最終的に国を譲る決断を下しました。

葦原中国が単なる地上世界である以上に、天津神と国津神の関係を調停する場であったことを示しています。また、大国主神の譲歩は、天皇家の統治の正統性を支える象徴的行為として理解されており、葦原中国は神々の力関係が集約された舞台として重要な意味を持っています。

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葦原中国と現代の理解

今日、葦原中国は「日本列島」あるいは「人間の世界」を意味する神話的な呼び名として解釈されています。天上界と地下界に挟まれた「中つ国」という概念は、日本神話だけでなく多くの神話体系に共通する三層世界観と対応しており、比較神話学の観点からも興味深い要素を持っています。また、古代の日本人が自然環境と密接に結びつきながら生活していたことを示す象徴的な表現として、歴史や文学の分野でも注目され続けています。

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まとめ

葦原中国は、日本神話における地上世界の名称であり、人間が暮らす現実の土地を神話的に表現したものです。高天原と黄泉国の間に位置づけられることで、古代人の宇宙観を映し出し、また国譲り神話を通じて天津神の支配を正当化する舞台として描かれました。葦が生い茂る水辺の風景を背景にしたその名称には、日本列島の自然と暮らしが深く刻み込まれています。葦原中国という言葉を知ることは、日本神話の世界観を理解するうえで欠かせない視点を与えてくれるのです。

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