草薙剣（くさなぎのつるぎ）は、日本神話に登場する伝説の神剣であり、八咫鏡・八尺瓊勾玉と並ぶ三種の神器のひとつとして、天皇の皇位継承を象徴する神聖な宝物です。その起源はスサノオノミコトによるヤマタノオロチ退治にさかのぼり、日本武尊の命を救った神話でも重要な役割を果たします。この記事では、草薙剣の由来や「天叢雲剣」との関係、現在の所在と見られるのかどうか、そして草薙剣に込められた信仰と象徴性について、神話と歴史の両面から詳しく解説していきます。
三種の神器とは―天皇の正統性を示す神聖な宝物
三種の神器とは、八咫鏡（やたのかがみ）、草薙剣（くさなぎのつるぎ）、八尺瓊勾玉（やさかにのまがたま）の三つの神宝を指します。これらは天照大御神が孫の邇邇芸命（ニニギノミコト）に授けたとされ、日本の皇統が天孫から続いていることを象徴する極めて重要な品です。皇位継承においては、三種の神器を受け継ぐことが正統な天皇としての条件とされ、神話と国家統治の結びつきを象徴しています。神器は神の意志を託されたものであり、単なる装飾品や武器ではなく、精神的・象徴的な意味合いが極めて強い存在です。
草薙剣の登場―スサノオノミコトとヤマタノオロチ伝説
草薙剣が登場する神話は『古事記』や『日本書紀』に記されたスサノオノミコトの物語に見ることができます。スサノオは出雲の国で八つの頭と尾を持つ巨大な怪物「ヤマタノオロチ」を退治した際、その尾から得られた神剣を天照大御神に献上しました。
この剣が「天叢雲剣（あめのむらくものつるぎ）」であり、後に「草薙剣」と名を変えることになります。
この剣はのちに天孫邇邇芸命へと伝えられ、さらに時代を経て日本武尊（ヤマトタケルノミコト）のもとへと渡ります。日本武尊は東征の折、野火攻めに遭遇した際、この剣で草を薙ぎ払って命を救われたことから、「草を薙ぐ剣」すなわち「草薙剣」と呼ばれるようになりました。
このように、草薙剣は神話の中で災いを祓い、正義を象徴する神剣として描かれています。
天叢雲剣と草薙剣の違い―名称の変遷と神話的意義
天叢雲剣と草薙剣は、実は同じ剣を指しています。もともとはヤマタノオロチの尾から現れた神剣として「天叢雲剣」と名付けられていました。「叢雲」とは重なり合う雲のことを意味し、この剣が天界と深い関わりを持つことを象徴しています。のちに日本武尊がこの剣によって窮地を脱したことを契機に、「草薙剣」として新たな名を与えられたのです。
このように、名前の違いは剣の由来と使用にまつわる伝承によって生まれたものであり、物としては同一とされています。天界から地上へ、そして皇統へと受け継がれる過程において、剣の役割や神聖性が異なる角度から語られている点は、日本神話の多層的な構造を示す好例でもあります。
草薙剣はどこにあるのか―熱田神宮と宮中の神器
草薙剣は現在、愛知県名古屋市の熱田神宮に奉斎されています。伝承によれば、日本武尊が亡くなった後、その剣は妃の宮簀媛命（みやすひめのみこと）によって熱田の地に祀られたとされています。熱田神宮では、草薙剣を御神体として祀り続けており、神社自体が剣の霊力と共に長い歴史を紡いできました。
一方、皇位継承の儀式で用いられる草薙剣は、正確にはその「形代（かたしろ）」とされ、実物ではなく象徴的な副本であるとされています。宮中の剣璽等承継の儀では、この形代が用いられ、天皇の即位の正統性を示す重要な役割を果たしています。つまり、草薙剣は本体が熱田神宮にあり、皇室には儀式用の神剣が存在するという形が長く続いています。
草薙剣の実物は見られるのか―神聖性と非公開の伝統
草薙剣は熱田神宮の本殿の奥深くに安置されており、一般はおろか神職でさえその実物を見ることは許されていません。これは神道における御神体の扱いと同様であり、「見ること＝穢れを生む」という信仰に基づいています。過去には火災や戦乱などによって移動が必要となった際、ごく一部の人物が「剣を運んだ」とされる記録はあるものの、詳細は明かされていません。
また、壇ノ浦の戦いで一度海中に沈んだともいわれ、その後の経緯については諸説存在します。現在の草薙剣がその「本物」であるかどうか、または後に新たに奉製されたものなのか、確たる証拠は存在していません。しかし、神道においては物質的な真贋よりも、「神が宿るもの」としての霊的価値が重視されるため、現存の草薙剣が正統な御神体であることに疑念をはさむ余地はないとされています。
草薙剣に込められた信仰と象徴性―今もなお生きる神話の剣
草薙剣は、日本神話の中で神々の力によって現れ、人々の命を守り、皇統をつなぐ道具として描かれてきました。その姿を直接見ることはできませんが、熱田神宮の荘厳な佇まいや、皇位継承の儀式の厳粛さを通じて、その神聖性は今もなお日本人の心に深く根付いています。
この剣に込められた力は、災厄を祓い、人々の安寧を願う心そのものです。草薙剣を祀るという行為は、日本神話と歴史、そして信仰の世界をつなぐものであり、国家や社会の根底に静かに息づく精神的支柱でもあるのです。神話が現代に生き続けるかたちのひとつとして、草薙剣は今も重要な役割を果たし続けています。
宇宙から神々、科学に至るまで、古代人の英知が詰まったカタカムナの内容をもっと知り、人生をもっと豊かで意味あるものにしませんか？
